『大使閣下の料理人』の“オヤジ風サンマ丼”を再現!
- Tue
- 18:00
- 再現料理
家と跡継ぎを守る為に四十代後半で家臣の元へ「押しかけ女房」として嫁ぐ事を決意し、後にその話を知った家康から感心された龍造寺隆信の母・慶誾尼、圧倒的に不利な状況にも関わらず計略の限りを尽くして城を守り抜き、秀吉から「対面して恩賞をとらせたい」とまで言われた妙林尼など、自ら道を切り開いていった女性も魅力的でしたが、その中で一番親しみを覚えたのが鍋島直茂の正室・陽泰院。
というのも、お二方とも戦国の世では珍しい恋愛再婚で、前妻と別れたばかりの鍋島直茂(32)が主君と共にあるお屋敷へ昼食を取りに立ち寄った際、炊事場で未亡人の陽泰院(29)が機転をきかせて大量の鰯をあっという間に焼き上げたのを見て一目惚れし、何度かお屋敷に夜這いして通った後に結婚したというエピソードがあったからで、現代でも通用しそうな馴れ初め話に親近感を抱いたものです(ちなみに夜這いした帰り、家臣から泥棒と間違われて追いかけられ、逃げる途中に足の裏を斬りつけられて跡が残ったという「どこのコメディですか?」と聞きたくなる実話も残ってます;)。
どうも、夫婦共に八十代になるまで生きたおかげで夫と長く一緒にいられた陽泰院に、自分もあやかりたいな~と思った当管理人・あんこです。
本日再現する漫画料理は、『大使閣下の料理人』にて主人公である大沢公さんの長女・かおりちゃんが疲れた父を元気づける為、祖父の巧さんと一緒に考えた料理・“オヤジ風サンマ丼”です!

それは、ひとみさんが長男・匠君を出産するのを手助けする為に公さんが日本に帰国し、ドタバタしていたある夏の日の事。
浅草にある老舗洋食屋・<うさぎ亭>のオーナーシェフをしている祖父の巧さんから、バイトの子が夏風邪を引いて急に休むことになったので一日だけウエイトレスをして欲しいと頼まれたかおりちゃんは、喜んでお手伝いする事にします(←一瞬、「夏休み明けに提出する作文は、職場体験レポートがナイス!」「ウエイトレスを通じて知った仕事の厳しさと、おじいちゃんの働く姿を見て感じた感想だったら、すごく書きやすそう!」と考えてしまった当管理人は、大分打算的な大人になってしまったようです…orz)。
幸いかおりちゃんは飲み込みが早く、混雑するランチタイムでもそつなくお運びをして巧さんを喜ばせ、仕事後に「親父がうるさいから現金は渡せないけど、現物支給で欲しいものがあったら何でも言ってみろ」と太っ腹な事を言われるのですが、この時かおりちゃんがお願いしたのは「パパぐらいの年齢の人が食べる、渋い料理を教えて!<オヤジ料理>ってやつ!」という、何と公さんに関する事。
かおりちゃん曰く、匠君が生まれてお母さんが入院して以来、毎日の食事はずっと自分が担当しているそうなのですが、最近「私の好きな料理ばっかりパパに出しちゃってた」と気づいて反省したそうで、せめて今からでも大人の男性が食べて嬉しくなるものを出して力をつけさせたいと考えたとの事で、初見時は「こんなことを娘から言われていたと知ったら、多分泣いてしまう…つД`)」と思ったものです;。

最初は「思いっきりオヤジ臭いのがいいな。食べるとオヤジ度120%UPするやつ」と言うかおりちゃんを、「…かおりが食べるのか?」と怪訝そうにしていた巧さんですが(←普段はあまり孫娘に干渉しない祖父ですが、こんな幼い時からオヤジっぽい少女になるのはさすがに嫌だったみたいです;)、一通り話を聞いて納得してからはその心意気を気に入り、早速調理の準備に取り掛かります。
とはいえ、巧さんが公さんの好みを知っていたのはせいぜい子どもの頃までで、成人してからの好みは全く知らなかった為、「どの道まかないを作るところだったんだ、二人でいっしょに考えてみようや」と手探りでオヤジ料理を考えてみる事にしていました。
実を言いますと、結局お二人は二種類のオリジナルオヤジ料理を生み出すのですが、その内の一つはズバリ、丼。
当初はてっきり洋食系のメニューだと予想していた為、少し意外に感じましたが、巧さんが主張するには「究極のオヤジ料理。それは、ホカホカ飯の上になみなみと具をのせた丼物に尽きる!」「かつ丼、玉子丼、親子丼、うな丼、天丼、かき揚げ丼…丼の中に飯とおかずを詰め込んで豪快にかき込むその単純明快さは、まさにオヤジそのもの」だそうで、そのあまりの熱さに圧倒され、妙に納得させられたのを覚えてます;。
しかしよくよく考えれば、某牛丼店が開店した時主な客層はサラリーマンだったとの話ですし、周囲でも丼が好きだと公言されているのは男性の方がやや多い気がしますので、感覚論なようで結構鋭い所をついている気がします(←ただ、これはオヤジの方に限った話ではなく、「全年齢層の男性」が丼物を好みやすいと言った方が、より正しい気もしますが…;)。

この時、巧さんとかおりちゃんが冷蔵庫にあったサンマにいろいろ手を加えて作ったのが、“オヤジ風サンマ丼”です!
作り方はそこそこ簡単で、オリーブ油をひいたバットへ三枚おろしにしたサンマを並べ、生姜焼きのタレ・山椒・黒胡椒・パン粉をかけてオーブンで焼いた後に炊き立てご飯へ移し、最後ににんにくチップと、オクラ・醤油・鰹節を混ぜた和え物を乗せたら出来上がりです。
ポイントは、サンマを焼く時必ず皮目を上にしてパリッとさせることくらいで、手が込んでそうな見た目によらずお手軽なレシピに、強い魅力を感じたものです。
何でも、 「脂ののったサンマとにんにくチップで疲れたオヤジの体に喝!」「そして栄養満点ネバネバ食品のオクラを加えてさらに喝!」というイメージで作ったみたいで、確かにこれはスタミナがつきそうだな~と思いました。
サンマの味付け方法と焼き方は巧さんが決めたものでしたが、サンマを手際よく捌いたり、にんにくチップやオクラをトッピングするのを思い付いたのはかおりちゃんのお手柄で、こういう所はお父さんに似たんだろうな~としみじみしました(←ひとみさんも料理はそれなりに作れるのですが、公さんにくらべるとやや不器用でそこそこの味に留まるらしい事が作中で描かれてます;。けれども、公さんは一生懸命作ってくれるひとみさんの気持ちが嬉しいようで、いつも美味しいと食べていますので、いいご夫婦だな~と思います)。
個人的には「オクラの粘りに疲労回復効果があって、尚且つ鰹節と醤油をかけたら男性受けする事まで知ってるなんて、勉強してるな~」と感心しましたが、どうやら巧さんは「オヤジの心がわかりすぎるのも不気味だな」という感想を抱いていたみたいで複雑な表情をしており、ハッとしました;(←もしかしたら、将来オヤジ並の酒飲みになるという伏線なのかもしれません;)。
この後、かおりちゃんは自分だけの力でもう一つのオヤジ料理を考え出して巧さんをさらにびっくりさせるのですが、今日は


安くて脂が乗った新鮮なサンマが手に入りましたので、再現してみる事にしました。
作中には大体のレシピが絵つきで載っていましたので、早速その通りに作ってみようと思います!
という事で、レッツ再現調理!
まずは、サンマの下ごしらえ。サンマの頭を落としてお腹を開き、ワタをかき出してお腹の中を流水で綺麗に洗ったら三枚おろしにし(←出来れば、小骨も丁寧にとるとさらにおいしくなります)、三等分になるよう切り分けます。
サンマを切り終えたら、オリーブ油をひいたバット(又は耐熱器)へ皮部分が上になるよう並べます。
※ワタは料理に使いませんが、捨てずにボウルへ入れて醤油と日本酒で和え、フライパンで少し煮詰めたら日本酒のおつまみに最適なワタ醤油ができあがります(サンマの刺身にかけたり、カボスを絞った茸類にかけて食べるとナイスです)。ワタの苦味が大好きな方におすすめです。



次は、焼き作業。
サンマを並べた所へ、醤油、みりん、おろし生姜を混ぜて作った生姜焼きのタレを回しかけ、山椒と黒胡椒を挽いたものをふりかけます。
調味液を味見して塩気がちょうどいいのを確認したらパン粉をふりかけ、強火のオーブンで様子を見ながら焼きます(あんまり長く焼き過ぎると身がぱさぱさになりますので、そこまで時間をかけなくて大丈夫です)。



パン粉がサクッとした感じになり、サンマに火が通ったのが分かったらすぐにオーブンから取り出します。
その間、ボウルへ茹でてヘタを取った後刻んだオクラ・醤油・鰹節を入れてよく混ぜ合わせた和え物と、油をひいた弱火のフライパンでにんにくスライスをじっくり焼いて作ったにんにくチップを用意しておきます。



炊き立てご飯をよそった丼へ焼きサンマを汁ごと乗せかけ、その上にオクラの和え物とにんにくチップを飾り付ければ“オヤジ風サンマ丼”の完成です!

オクラの瑞々しい緑と、焼きサンマのこんがりと美味しそうなきつね色の組み合わせもさることながら、脂が焦げた香ばしい香りが素晴らしく、喉が鳴ります。
材料は和風ですが調理法はまるっきり洋風な為味の想像がつきませんが、かおりちゃん達を信じて食べてみようと思います!

それでは、熱々の内にいざ実食!
いただきまーすっ!

さて、味の感想はといいますと…始めはガツンとくるのに、不思議とあっさりした後口で美味!全く新しいイタリアン丼です!
通常、焼いたサンマは大小あれどどうしても水分が抜けてぱさっとするものですが、これはオリーブ油で半ば煮るようにして火を通しているおかげでトロトロリと滑らかな舌触りで、口に含んだ途端ホロホロと柔らかく崩れ、ジューシーな脂と共にご飯に絡んでいくのがたまりません(←例えるとするなら、「アヒージョ風しょうが焼きサンマ」というイメージでした)。
黒胡椒のビリッと刺激な辛さと、山椒の清々しい和の辛さが複雑に入り交じり、旬のサンマ特有のこってり濃厚なのにしつこくない脂分をキリリと引き締めるのがよかったです。
爽やかに甘辛いしょうが醤油味のサンマは白いご飯にぴったりで、タレが染みて半分カリッと半分しっかりとしたパン粉のせいか、まるで魚版のカツ煮ともいうべき味わいなのが印象的でした。
にんにくチップを噛み締めると途端に「スタミナ抜群!」という感じの美味しさになりますが、おかか醤油をまぶしてしょっぱ旨い塩気がついたオクラと一緒に食べると、ザクザクした食感とねっとりしたとろみで急にさっぱりヘルシーな旨さに変化する感じで、組み合わせ次第で全く別物になるのが面白かったです。
当初は丼つゆが少ないのが心配でしたが、実際に食べてみるとサンマが濃いめの味つけなせいかぴったりで、むしろちょうどいいくらいでほっとしました。
見た目は洋風っぽいんですが、味付けは「これにはご飯、絶対ご飯!」と思わず興奮しちゃうくらいの和風味で、我を忘れてバクバク食べました;。
ご飯なしでお酒のおつまみにしてもいけますので、また作りたいと思います。
●出典)『大使閣下の料理人』 原作:西村ミツル 作画:かわすみひろし/講談社
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