『クッキングパパ』の“まもるチャウダー”を再現!
- Fri
- 18:00
- 再現料理
そもそも、エスカルゴって魚介類扱いでいいのだろうか?と疑問に思い調べてみたのですが、どうやらエスカルゴは分類学上「陸に住む貝」とされている巻貝の一種らしく、立派な魚介類だと結論付けられているとの事。
一番近い仲間はサザエらしく、食感的にはつぶ貝やバイ貝の方が似ていそうなのにな~と意外に感じました。
どうも、去年のハロウィンの時にサーモンと海苔で怖い顔のかぼちゃランタンをかたどった刺身盛が売られているのを見て感心した当ブログの管理人・あんこです。
本日再現する漫画料理は、『クッキングパパ』にて上田守君が調理師専門学校の卒業制作発表の場で作った“まもるチャウダー”です!

同じアパートのおばちゃんに教わったいなかパイがきっかけで料理人を目指し、それなりにこだわりがあった髪の毛をばっさり切って調理師専門学校に入学した守君ですが(←詳しくはこちら)、数年経っていよいよ卒業制作に取り掛かることになります。
実を言いますと、この時守君は既に自分の得意料理であるクラムチャウダーにもっと磨きをかけて提出しようと考えていたのですが、他の仲間と一緒に過去の卒業制作作品集を見てその想いは大きく揺らぎます。
というのも、卒業した先輩方の作った料理はどれも煌びやかで見栄えが良く、新人の料理というよりは一流料理店のスペシャリテとして言ってもおかしくない程の完成度を誇っていたからで、ただでさえ合格できるか心配だったのにますます自信喪失します(←これが悟空みたいな少年漫画的主人公だったら、「こいつすごいな~!でも、オラも負けねえぞ!」とより燃えるシーンですが、守君はクリリンみたいな努力派の常識人タイプなせいか、逆効果だった模様;)。
学校によっては赤点さえ取らなければ卒業できる所もあるみたいですが、守君の所は「採点はきびしいわよ。いいかげんな料理だったらビシビシ落としますからね」と先生が釘を刺すくらいスパルタ方式みたいで、こんな事を言われたら『ミスター味っ子』の天才料理少年でない限り不安になっても仕方がないだろうな~と同情しました;。
ちなみに、実際はどんな感じか気になって調理師専門学校の卒業作品展のページを拝見したのですが、本当に目もくらむような艶麗繊巧な料理ばかりで圧倒されました(←こちらとこちら)。


帰宅してからもずっと悩んでいた守君は、「いいと思うけどなっ。あたしはまもるが作るクラムチャウダー大好きよ」「きっと合格するわよ、先生たちあまりのおいしさにびっくりするかもネ」と言って勇気付けようとするひとみさんの言葉を素直に受け取れず、「なんにも知らないくせに!」と当たって家を飛び出してしまいます。
「見苦しいなオレ…せっかくひとみが励ましてくれてるのに…」と自己嫌悪に陥った守君は、事あるごとに色んな助言をしてくれる荒岩主任の元に自然と足が向き、卒業制作に出す料理について相談します(←兄の康巳さんは、田中君に似てちゃらんぽらんでイマイチ頼りにならないせいか、すっかり荒岩主任が心の兄貴役として支えになっている感じです;)。
守君としては、「クラムチャウダーなんて、地味でしょうもない料理じゃだめだなと思って…。何か、ほかに見栄えのする料理はないかな…と…その…アドバイスを…」という気持ちで来たみたいですが、荒岩主任は「まもるくん、そんなアドバイスはできないなっ」と一刀両断します。
荒岩主任曰く、「料理にしょうもないものなんてないんだよっ!!クラムチャウダーだって奥は深い」「下ごしらえひとつにしても工夫のしかたはいくらでもある。キミの努力しだいで世界にふたつとない素晴らしいクラムチャウダーが作れるはずだ」「がんばれっ。先生たちだってそんな見ためだけで採点はしないさっ」との事で、すっかり元気付けられた守君は早速帰宅し、「ただいまーっ。ひとみ、さっきはごめんな」「オレ、やっぱりクラムチャウダーを作るよ」「最高にうまいヤツができるまで、何度でも研究しなおしてみるぜっ」と言って試作に励んでいました。
荒岩主任の言う通り、クラムチャウダーは一見単純に見えて奥深い定番料理で、オーソドックスなミルク味のニューイングランド風・牛乳の代わりにコンソメやトマトを使うマンハッタン風・すまし汁仕立ての歴史あるロードアイランド風・酸味のあるサワードウというパンをくり抜いて器にするサンフランシスコ風など、地理学的にもなかなか興味深いスープ。
『美味しんぼ』でも、基本的な料理の一つであるカルボナーラを「単純だが、うまく作るのは難しい」と表現していますので、簡単な物ほど完璧に作るのは一番難しいのだと改めて思います。

こうして二日後、徹底的に自分オリジナルのクラムチャウダーのレシピを見直して改良した守君は、卒業制作試験当日にベストを尽くして料理します。
その際、守君が自信を持って出したのが、この“まもるチャウダー”です!
作り方はそこそこ手間がかかり、アサリ・ハマグリ・カキ・白ワイン・お水をお鍋で煮て出汁を取り、ベーコン・玉ねぎ・セロリ・ボイルホタテ・甘塩鮭・小麦粉・じゃがいも・お水・オレガノを炒めて煮込んだお鍋へ投入し、生クリーム・バター・塩・こしょうを加えてさっと煮たら出来上がりです。
ポイントは、貝類(←特にカキ)は火を通しすぎないよう気をつけること、煮込んでいる時に出るアクは完全に取り除くこと、生クリームを加えてからは絶対に煮立たせないことの三点で、これらさえ守れば絶品に仕上がると書かれていました。
こういうミルク味のクラムチャウダーは牛乳をベースにしたり、使う貝はアサリやハマグリのみというレシピがほとんどなのですが、守君は贅沢にも生クリームだけをベースにし、カキとホタテもプラスしてよりご馳走感を高め、見た目の大人しさからは考えられない程ゴージャスなスープに仕上げているのが特徴的でした。
幸い、この控えめながらも大胆な取り組みは、この日たまたまアメリカからやって来ていた有名ホテルの料理長・ジョン=スミスさんに鋭く見抜かれており、大勢の生徒の中で唯一の「ベリィナイスッ!!コレカラモガンバリナサイッ」という賛辞を受け、見事トップ合格を果たしていました。

先日、スーパーで珍しくハマグリが扱われていたので再現する事にしました。
作中には分量つきの詳細なレシピがきっちり記載されていましたので、早速その通りに作ってみようと思います!
ということで、レッツ再現調理!
まずは、貝類の下処理。
小鍋へ砂抜きしてからよくこすり洗いしたアサリとハマグリ、白ワイン、お水を入れてフタをし、中火にかけて殻が全部あくまで放置します。


全ての殻が開いたら火を止めてアサリとハマグリを取り出し、再度沸騰させて生食用のカキを投入し、さっと湯がいて取り出します(←カキは大根おろしをまぶして軽くもみ洗いしたり、牛乳につけて臭みを抜いてから使ったほうがいいです)。
残ったスープは清潔なガーゼ等を敷いたザルでしっかり漉し、アサリとハマグリは殻から身を取り出して食べやすいサイズに切ります。


次は、炒め作業。
大きめのお鍋へバターを入れて中火にかけ、一センチ角に切ったブロックベーコンを加えて炒め、薄くスライスした玉ねぎとセロリを投入してさらに炒め合わせます(←この時、焦がさないよう注意してこまめに混ぜた方がいいです)。
野菜類がしんなりしてきたら、一センチ角に切ったボイルホタテと甘塩鮭(←骨と皮は取っておきます)を加え、ざっと炒めます。



そこへ小麦粉をふりかけて全体へ絡めながらよく混ぜ、一センチ角に切ったじゃがいもとお水を投入して沸騰させます。
グツグツ煮立ってきたら弱火にし、アクをしっかり丁寧に取り除きながら約十五分かけて煮込み、途中オレガノを少々入れて香り付けをします。



時間が経ったら、アサリ、ハマグリ、カキ、漉したスープを入れて弱火のままゆっくりと温め、生クリームを注いで混ぜ合わせます(←煮立ったら分離して味がガクンと落ちますので、絶対に沸騰させないように気をつけて下さい)。
最後にバター、塩、こしょうを加えて味を調えます。


味の微調整が終わったらすぐに火を止め、スープ皿へ具と一緒に注いで上から刻んだパセリをぱらりと散らせば“まもるチャウダー”の完成です!

作る前の予想ではもっと濃い色をしていそうだと思っていたのですが、実際はオフホワイトを基調としたエレガントな色合いで、見るからに美しい仕上がりだな~とちょっと見とれました。
温かな湯気からアサリやハマグリの心とろかす香りがふわっと漂ってくるのが食欲をそそる感じで、どういう味になっているのかすごくドキドキします!

それでは、出来立て熱々の内にいざ実食!
いっただっきまーす!

さて、感想は…美味しすぎて静かに衝撃を受け、思わず襟を正したくなるような味わいで圧倒!貝の旨さを惜し気もなく贅沢に活かした、高級レストラン風の上品でリッチなスープです!
アサリだけではなくハマグリ・ホタテ・カキの貝汁が何層にも渡って複雑に重なり合っているせいか、磯の旨味をギュッと凝縮したような海そのものな塩気と、貝類特有の舌に深く響く甘味が大波の如くどっと押し寄せる迫力満点のスープで、前菜というよりもはやメインといっていい程重厚感のある一皿。
牛乳ではなく生クリームを使っているせいか、普通のクラムチャウダーよりも濃密なコクが効いて口当たりがさらにまろやかになっており、海の幸の繊細かつ力強いエキスを包みこんでさらに洗練したご馳走スープに昇格させているのに感心しました。
様々な貝の出汁がガツンと攻めてきてさらりとした飲み味の為、バターの芳しい香りが効いたミルク味で完全に洋風だというのにどことなく潮汁を彷彿とさせる感じで、初めて食べるはずなのに懐かしい気持ちになります。
具をたっぷり取って口にすると、アサリやハマグリのプリプリシコシコした艶やかな食感、ホタテのしっとりコリコリした弾力、鮭のホロリとした柔らかさ、ベーコンのジューシーな噛み応え、じゃがいものホコホコ感、玉ねぎやセロリのしんなりシャグシャグした歯触りが一気に溢れ返って賑やかになる感じで、飲むと言うよりは海と陸の恵みを丸ごと食べるスープというイメージでした。
牡蠣に至っては、半熟のクリーム煮状態になる事でより濃く甘くとろけるようにミルキーな味わいに仕上がっており、もうこれだけ別に出しても立派な一品料理になる完成度で唸ります。
魚介類は個性が強いので臭みやえぐみが出やすいという弱点があるのですが、こちらはオレガノのほのかに苦味を帯びた清涼感溢れる緑の香気が後口をやんわり引き締めている為、海鮮の純粋な旨味だけが抽出されたような澄み渡った味わいが印象的でした。
ブイヤベースが華やかなお祭り騒ぎの「陽」の味わいとするなら、こちらは一見地味でも心の底にしみじみと染み渡る「静」の味わいという感じです。
一旦完全に冷めてしまうと、完璧な状態に温め直すのが非常に難しいという弱点がありますが、一回食べたら何度でもおかわりしたくなるので、すぐに食べきってしまえると思います。
夫も飲んだ帰りでそれなりにお腹が満たされていたはずなのに、「うまいっ(゜∀゜*)!」と言って大皿におかわりまでしましたので、色んな方にお勧めできる一品だと感じました。
P.S.
青子さん、kawajunさん、コメントを下さりありがとうございます。
●出典)『クッキングパパ』 うえやまとち/講談社
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。
※レシピの分量や詳しい内容は、以前こちらでご説明した通り完全非公開に致しております。