『くーねるまるた』の“鶏皮入り特製チャーハン”を再現!

 先日、もう八年くらい通っている洋食屋さんへ久々に足を運んだのですが、初めて行った日からずっとフロアを担当しているウエイトレスさんがおらず、気になって少しお話する仲であるお店の奥さんに聞いた所、最近結婚して退職した事を知り、相方さん共々感慨深い気持ちになりました。
 何故かかなり不愛想な方で、最初はギョッしたものでしたが、段々その素っ気なさを居心地よく感じるようになった思い出があります。
 いつの間にか、そのお店に行く=そのウエイトレスさんと会うというのが至極当たり前の事だと頭にインプットされるようになったのですが、むしろお互い名前も知らないあやふやな関係なのに八年もの間、毎回目と目で「ああ、あのウエイトレスさん(お客さん)か」と確認しあえたのは稀な事だったのだと、今更ながら気づきました。
 この出来事をきっかけに、変わらない「今」が続いているのではなく、ほんの少しずつ変化する「未来」を自分は生きているのだと、やっと実感した今日この頃です。

 どうも、しかしそのお店の名物である牛タンシチューを食べた途端一気にシリアスモードがふっとんだ管理人・あんこです。


 本日再現する漫画料理は、『くーねるまるた』にてマルタさんが幸田文のエッセイに触発されて作った“鶏皮入り特製チャーハン”です!
鶏皮入り特製チャーハン図
 ある晴れた休みの日、マルタさんはスカイツリー見物(←残念ながら懐が寂しかったらしく、遠くから眺めるだけだったのが切なかったです;)ついでに、谷中天王寺にある五重の塔跡を見学しに行きます。
 どうやらマルタさんは、江戸時代に五重塔を再建する為全てをささげたある大工を中心にして書かれた名作・『五重塔』を読んで以来、ずっとこちらの遺跡に興味を抱いていて今回訪れたようで、始終興奮していました。
 『五重塔』は確かに素晴らしい作品ですが、明治時代に書かれた作品に共通する独特な句読点の打ち方、ひらがなに匹敵するほど多い漢字、そして文語体なのが口語体のフランクな文章に慣れた当管理人には辛く、読み終わるまで四苦八苦した記憶がありますので、ポルトガル出身のマルタさんが難なく読み終えていると知ってかなり尊敬したものです←普段はすっかり忘れていますが、こういう時マルタさんはリスボン大学出身の才女だという事をやっと思い出します;)。

 その内、マルタさんは幸田露伴→その娘さん→幸田文と頭の中で連想し、帰る頃には幸田文の「凜としてて」「日々の営みへの優しい眼差しと、職人のような芯の強さ」の文章について頭の中がいっぱいになります。
 幸田文は「台所育ち」と自称する程家事にこだやりと愛着を抱かれていた女流作家で、マルタさんの言う通り凛として上品な、洗練された文章が特徴的。
 マルタさんにとって心に残ったのは「京都の女性は台所の音が優しい」という一節だったみたいで、当管理人も概ね同感なのですが、個人的に最も印象的だったのは、『幸田文台所帳』に記されていた「台所という場所は、公開のような、また自分だけの密室のような、ふしぎなところである」「人の心も、公開のような、密室のような、あやしいからくりでできていると思う」「あそこは大根や魚を料るところでもあったが、女の心の業をこなす場所でもあった。教室だったと思う」という文章。
 初めて読んだ中学生くらいの時は今一つピンときませんでしたが、何年か料理し続け、その日の気持ちや悩みがどんなに隠しても台所での作業に影響するのを痛感した今なら分かる気がして、感慨深くなったものです。
幸田露伴の娘で、作家でもある幸田文の作品が好きなマルタさん
 その後、マルタさんはお肉屋さんを通りかかって「お肉…素敵な響き…」とうっとりするのですが、瞬時に素晴らしいアイディアが降臨し、「おじさん、か、皮!皮あります!?」と言いながらお肉屋さんへ駆け込んでいました(←当然ながら、おじさん困惑してました;)。
 こうして帰宅後、お肉屋さんで百円という破格の値段で手に入れてきた鶏皮を使ってマルタさんが作ったのが、この“鶏皮入り特製チャーハン”です!
 作り方は少し時間がかかるものの簡単で、まずフライパンに食べやすく切った鶏皮を入れて一時間近く火を通し、油が十分出てきたら鶏皮のみ取り出して長ネギとしょうがを加えて火を通し、最後に漉して鶏油(チーユ)を作ります。
 この自家製鶏油をフライパンにひいてごく普通のチャーハンを作り、仕上げに先程取り出しておいたカリカリの鶏皮(←塩とこしょうで味付けしときます)と、香ばしくなった長ネギを投入し、ざっと混ぜたら出来上がりです。

 鶏油は、幸田文が台所に常備していた自家製調味料の一つ。
 マルタさん曰く、「炒め物や煮物に使うとおいしさがワンランクアップする魔法の調味料」との事で、調べた所ラーメンや焼きそばに混ぜてもいけるのだとか。
 一見体に悪そうに見えますが、鶏油に含まれるオレイン酸は血中コレステロールを減らす作用がある為、一度に大量にとらないのであればむしろ体にいいとの事で、ほっとしました;。
 また、これはどういう理屈なのか分かりませんが、ある方が言うにはチャーハンを炒める時に使うと他の油よりもご飯のツヤツヤ度が段違いだそうで、健康にいいだけでなく見た目もよくなるなんて…とかなり心惹かれたものです。 
幸田文の台所にもあった鶏油を作り、「いい香り」とご機嫌そうなマルタさん
 鶏油は幸田文の作品を参考にして用意したみたいですが、特製チャーハンの方は「<酒仙>の異名を持つほどお酒好きだった露伴も食べていたかもしれない」鶏皮を食べている内に空想が広がって思い付いた物みたいで、相変わらずなんでも食べ物に結び付けて考えるマルタさんに苦笑しました;(←まあ、他人事ではないので偉そうな事は言えないんですが…orz)。
 実際に食べてみたマルタさんが言うには「おいしーっ!やっぱり全然味が違う!チャーハンがご馳走にっ!!」だそうで、嬉しそうに完食していました。

 実を言いますと、マルタさんは幸田家のお正月の食卓に必ずと言っていい程登場していた牛タン料理に興味津々みたいで、いつか挑戦してみたいと思っているみたいなんですが、牛タンのグロテスクさや下処理の大変さに躊躇しているようで、「まあ今のところお肉は鶏で十分かな」と考えていました。
 当管理人も牛タンを丸々捌いた事はありませんので、そのきつさは想像するしかないのですが、『父・こんなこと』にて「私が何より辛いとおもったのは牛のタンだった。どさりと重いその肉塊は舌特有の皮に覆われ、生きていた時のぬるぬるを思えば、塩で浄めているその手が震えた」「まだら牛だったのか、横腹に薄墨色の斑などのある舌を摑んだおどろおどろしさは、涙の出るどころではない無気味さだった」と生々しく語られているのを読むだけでお腹いっぱいになる為、マルタさん同様作りたいと思いつつも「おいおいってことで…」とずっと先延ばしにしています;。
チャーハンに加えて食べてもよし、ラーメンに落として食べてもよし、煮物に入れてもよしと万能
 先日、近所のスーパーで鶏皮が大量に安く売られているのを見かけ、再現を決意しました。
 作中には詳しいレシピが図入りで載っていますので、早速その通りに作ってみようと思います!


 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、鶏油作り。フライパンへ適当な大きさに切った鶏皮を入れて弱火にかけ、約一時間かけてじっくり炒めます(なるべく均等に火が通るよう、平たく広げるのがポイントです)。
 やがて、鶏皮から油がでなくなってカリッとしてきたら火を止め、キッチンペーパーに鶏皮を取り出します。
 この鶏皮はまた後で使いますので、塩とこしょうを振って下味をつけておきます。
 ※↑チャーハンに入れても美味ですが、そのまま食べても美味しいです!なお、鶏皮は内臓同様特に臭みが強い部分でもありますので、なるべく品質のいい物を使われる事をお勧めします。
鶏皮入り特製チャーハン1
鶏皮入り特製チャーハン2
鶏皮入り特製チャーハン3
 フライパンになみなみと残った油へ、ブツ切りにした長ネギと包丁の背でつぶした皮付きしょうがを投入し、再度火にかけて油に香りをつけます。
 数十分後、油全体に香味がついたのを確認したら長ネギとしょうがを取り出し、丁寧に仕上げたい場合は漉し器にかけて余分な欠片を取り除きます。
 しっかり冷まし、消毒済の瓶に詰めたら鶏油は出来上がりです!
鶏皮入り特製チャーハン4
鶏皮入り特製チャーハン5
鶏皮入り特製チャーハン6
 次は、チャーハン作り。
 熱したフライパンに先程の鶏油をたっぷり入れてなじませ、白い煙が立ってきたら溶き卵とご飯を一気に投入して手早く混ぜ合わせます(←この時、木べらかお玉で丁寧にご飯の塊をほぐしてパラパラに仕上げます)。
 溶き卵がご飯に行き渡ったら、塩、こしょう、刻みネギ、カリカリになった鶏皮、鶏油に使った長ネギ(←小さく刻みます)を加えてさらに炒め、最後に醤油をほんの少したらして香りをつけます。

 ※残念ながら、マルタさんはチャーハンのレシピを全く記していない為、はっきり書かれている情報以外は空想に頼って作りました;。ちなみに、今回はマルタさんがあまり料理に醤油を使わない事や、チャーハンにそこまでこだわりがなさそうな事を考慮し、醤油を控え目にした『華中華』風基本チャーハンという感じで調理をしました。
鶏皮入り特製チャーハン7
鶏皮入り特製チャーハン8
 チャーハンに具が混ざりきったらすぐに火を止め、そのまま丸く形作ってお皿へ盛り付ければ“鶏皮入り特製チャーハン”の完成です!
鶏皮入り特製チャーハン9
 鶏油にしっかり溶け込んだ長ネギとしょうがの香ばしい匂いが濃く漂い、嗅ぐごとにうっとりします。
 パッと見は茶色っぽくて見栄えが悪く見えますが、鶏皮の焦げ茶色、長ネギの緑色、卵の黄色は地味ながらも見れば見るほどそそる感じでした(本当にご飯粒がいつも以上にツヤツヤに仕上がってて、感動しました)。
 鶏油をチャーハンの味付けに使った事は何度かありますが、ここまで主役に据えて作った事はありませんので、どういう味がするのかワクワクします。
鶏皮入り特製チャーハン10
 それでは、熱々の内にいざ実食!
 いっただっきま~すっ!
鶏皮入り特製チャーハン11


 さて、味はと言いますと…マルタさんの言う通り味が全然違ってて美味し!確かに、ぐっと凝った味になってます!
 ご飯の一粒一粒に鶏油が染み込んで香り高く仕上がっており、噛むごとに鶏の深みのある落ち着いたコクが口の中へ広がっていきます←ラードは濃厚でどことなく甘みのある味わいですが、鶏油は香ばしくて辛くも甘くもないあっさりした味が特徴的)。
 皮は一番臭みが出やすい部分ですので、当初は「鶏臭くないかな?」と心配だったんですが、しょうがのキリリとした爽やかな風味と、長ネギの清々しい香りが相乗効果で独特の匂いを打ち消している為、全く気になりませんでした。
 カリカリに揚がって水分が完全に飛んでいる鶏皮はやや硬めなんですが、ギュッと噛み締めた途端凝縮された鶏の旨味がじわ~と溢れ、徐々にホロリと柔らかくほどけていく感じで、チャーハンの香味と相まって混然一体となるのが素晴らしいです。
 じっくり火を通したおかげで飴色玉ネギにそっくりな甘味に仕上がった炒め長ネギと、シャキシャキした食感がまだ活きてて小気味良いチャーハンの長ネギがダブルで効き、二倍おいしくなっているのがナイスでした。
 塩とこしょうのみのシンプルな味付けがかえって鶏油の癖のない旨さを引き出しており、単純ながらもしみじみおいしいです。


 余計な材料が一切入っていない鶏油は自然そのものな味わいで、食後感がベトッとせずサラッとしているのに満足しました。
 チャーハンの他にも色々使い道がありそうなので、近々試してみようと思います。

P.S.
 りりあさん、先日はコメントにてご連絡ありがとうございます。間違って送信されていたコメントは、承認せず未承認のまま残させて頂きましたので、大丈夫です。もし削除をご希望される場合は、お手数ですがご一報下さりますと幸いです。

●出典)『くーねるまるた』 高尾じんぐ/小学館
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2014.08.11 Mon 15:14  |  

真似して作って見ました!鳥の優しい香りが広がって、ラードとは違う華やかなチャーハンになりました^_^

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Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
 …『テルマエ・ロマエ』
 …『土曜日ランチ!』
 …『BAR・レモンハート』
 …『百姓貴族』
 …『ぶたぶた』シリーズ
 …『ベーグル食べない?~幸せカフェごはん~』
 …『飯盛り侍』
 …『夢色パティシエール』


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