『最後のレストラン』の“ホタルイカのブランダード”を再現!

 現在は大分落ち着いてますが、小学~中学の頃は大がつくほどの新撰組ファンで、その熱の入れようたるや、一ヶ月分のお小遣いを全部はたいて幕末の資料や小説を買ったりする程でした(←「私は長州生まれだから、新撰組からすると敵側の人間か…」とがっかりしていたのは、未だに痛い思い出ですorz)。
 しかし、中学三年のある日、某本で「沖田総司の墓がある墓地は、熱烈なファンが墓石を削ったりする事例が相次いだ為、今は一般公開されていない」と書かれているのを読んで「自分はこの境地には至れないだろうな…」と思い、それがファン熱を少し冷ました観は否めません;。

 どうも、昔はパチンコ屋だった池田屋跡地が居酒屋になったと知って「行きたい!」と久々に血が騒いだ管理人・あんこです。


 本日再現する漫画料理は、『最後のレストラン』にて園場さんが土方歳三からリクエストされて作った“ホタルイカのブランダード”です!
ホタルイカのブランダード図
 それは、やけに蒸し暑かったある夏の日の事。
 すっかり<ヘブンズドア>に定着したジャンヌさん達と園場さんは敷地内にある物置の整理をし、偶然出てきた七輪を使ってバーベキューパーティーをする事になるのですが、その最中またしてもタイムスリップしてきた歴史上の有名人物をもてなすことになります。
 その人物の名は、新撰組副長・土方歳三。
 とは言っても、有名な京都時代ではなく函館戦争時代の土方歳三で、どうやら五稜郭へ帰る直前の夜、蒸し蒸しする空気を吹き飛ばそうと馬で駆けている時に<ヘブンズドア>の敷地内へ迷い込んだようでした(←ちなみに、土方歳三に似ていると噂の荒木飛呂彦先生を意識した描かれ方がされており、初見時は吹きました;)。
 ちなみに、土方歳三は最初園場さんをスパイと間違えて首筋に刀を当てるという物騒な行為をしており、てっきり苦情を言いに来たご近所さんが乱入したと思いこんだ園場さんから「すみませんすみません!こんなに煙が出るとは思わなかったものですから!」と怯えられていました;(←よくよく考えれば、初っ端から無言で刃物を突き付ける人なんて通報されても文句はいえませんので、そういるはずはないんですが;)。

 新撰組が全盛期だった頃、土方歳三は「鬼の副長」と呼ばれるほど厳しく、仲間といえど一切容赦せずに処断する姿が恐れられたものでしたが、作中では数多くの同志の死を見続けてきた結果、少しずつ考え方や部下への接し方が変化してきている様子が描かれています(←小姓の市村鉄之助を日野へ逃がしたり、こっそり酒盛りした隊士達を罰さず「戦地であえて死を語るは臆病者のする事なり。いかにしてすべきことをするか、それを考えろ」と諭すシーンがあります)。
死を迎える直前、かつて鬼の副長と言われた土方歳三は、考え方が変化してきていました
 これは元新選組隊士だった中島登によって残っている記録ですが、若い隊士らを連れて食事に行ったり、細々した相談に乗ったり、戦闘の合間に皆へお酒を振る舞ったりと、ほんの数年前の苛烈さは影を潜めており、「温和で母のように慕われていた」程だったとの事で、何が土方歳三をそこまで変えたのかと想像すると、胸に迫るものがあります。
 正直、農民だった自分を正式に武士として取り立ててくれた幕府への恩義は何にも勝る大切な物で、それは旧幕軍はもうどうにもならない程劣勢と分かっていても捨てきれず、「武士」として死ねなかった近藤勇や志半ばで死んだ隊士達の為にも自分だけは「武士」としての本懐を最後まで遂げたいという覚悟は確実にあったと思いますので、単に歳を取って丸くなったとか、これまでの行いを後悔してそうなったという可能性は皆無だと感じています。
 けれども、そういった意志とはまた別のところに、「前途ある人間はなるべく生き残って欲しい」「そして、生きる者にだけ成せる己の役目を果たしてほしい」という、武士道とは相反する想いも新たに芽生え始めていたのではないか…と、当管理人は考えています。

 隊士達を一つにまとめる為、「退けば斬る」と脅しだけではなく本気で実行して統率する、孤独で冷徹な「武士」の土方歳三。
 自身の終焉が近い事を悟り、悔いがないよう部下を平時はくつろがせて戦時には心置きなく戦ってもらい、無駄死にする人間を一人でも減らしたいと願い実行する「私人」としての土方歳三。
 個人的に、この二つの人格が箱館戦争時の土方歳三に矛盾する事なく両立していたと思っている為、藤栄道彦先生が「土方を創作で扱うと<戦いが生き甲斐>みたいな描き方されますが、僕が感じるのはこのコンプレックス(注:生まれながらの武士に対する)と孤独ですかね」「あまり武士然としては描きたくなかったです」と後書きで書かれていたのに共感したのを覚えています。
自身の変化、そして遺族の手紙によって思う所があった土方歳三は、馬をかけます
 実は現代に来る前、土方歳三は戦死した部下の遺族からホタルイカの干物と、「あなたにとっては名も無き残兵。ですが、私達にとってはあまりにも大きな人生の一部なのです」「願わくば兄を生かして返して下さい。返せ」という手紙を受け取っており、この時持参していたのですが、ジャンヌさんから「マスターは素晴らしい料理を作って奇跡を起こしますの」という言葉を聞いて興味をひかれ、「たとえ小さくてもそれぞれがそれぞれの光を放つ。一つとして同じものは無い。だがそれも、生きている間だけの話だ」「そいつをもう一度生き返らせられるか?奇跡を起こす料理人よ」と半分冗談でリクエストし、ホタルイカの干物を手渡します。
 いつものように難解極まりないオーダーですので、初めて読んだ時は慌てるだろうな~と予想していたんですが、意外にも園場さんは少し考えてから「いいですよ。やってみましょ」とあっさり請け負います。

 こうして、園場さんが死んだホタルイカをもう一度生き返らせる為に作り上げたのが、“ホタルイカのブランダード”です!
 作り方はそこそこ簡単で、塩抜きしたホタルイカの干物・炒めたにんにく・生クリーム・牛乳をフードプロセッサーでペースト状にした後、じゃがいもを茹でて潰した物に混ぜ込んで塩で軽く味付けし、最後にオーブンでこんがり焼いたら出来上がりです(←トーストしたフランスパンに乗せて食べます)。
 園場さん曰く、「ブランダードとはプロヴァンスの<混ぜる>という意味から来た言葉」だそうで、元はフランス南部で生まれた郷土料理との事。
 本当は干し鱈を塩抜きした物をじゃがいもに和えたり、マヨネーズ状に練るのが基本的なレシピなのだそうですが、今回はホタルイカバージョンにして少々アレンジしたみたいでした。
 イカと芋類の相性の良さは、「イカと里芋の煮物」や「イカの塩辛のせじゃがバター」で既に立証されていますので、これはなかなかいい線をついているな~と感心したものです。
今はもう亡き元部下の親族が送ってきたホタルイカの干物を持っていました。
 味自体は皆に好評で、土方歳三も「イケるな」と認めてはいるのですが、ホタルイカは粉々になって形すら分からなくなっているのにどこが「生き返っている」のかと疑問に思い、園場さんに理由を聞きます。
 すると、園場さんは「では、生きるということがどういうことなのか、まず、お聞かせ願えませんと」「手足を使って動き回ることが生きるということなら、草花はどうか?他人と意志を通じ合わせることが生きるということなら、言葉を喋れぬ赤子はどうか?食べるということが生きるということなら、食事ができぬ病人はどうか?」と逆に問い返し、土方歳三は言葉を失います。

 園場さんが言うには、「私にとって生きるということは、自分の役割を果たすということ」だそうで、この“ホタルイカのブランダード”は「ホタルイカはもう光を放てません。姿も形も見えません。ですがその味をしっかり残しています。血になり、肉になります。役目を果たしています」という想いを込めて作ったと語り、ただ生きているだけの人生は死んでいるのと同じとも言及していました。
 そう考えてみると、ただ単に命が失われて役割を果たしかねている存在(=手を入れないと美味しく食べられない食材)を、人の口に入りやすいよう、すぐ栄養になるよう、「美味しかった」と強く記憶されるよう調理が出来る料理人という存在は、改めて素晴らしい役目を果たす人々なのだな~と尊敬の念が強まります(←無論、そこまで行き着くようにする生産者の方や加工業者の方も!)。

 どうやら、土方歳三にとってこの考え方は納得のいくもので満足したらしく、やっと力を抜いて笑っており、去り際に「これ…包んでもらえんか?部下に食わしてやりたい。おれも、上に立つ者の役目をちっとはやっとかんとな」という言葉を残し、再び死地へと戻って行っていました。
 読むたび、「自分の役目」とは何かを考えさせられるエピソードです。
目に見え、言葉を話し、動き回るものだけが果たして「生きている」といえるのかと問いかけます
 先日、偶然ホタルイカの干物を手に入れる事が出来ましたので再現する事を決めました。
 作中には大体の作り方が載っていてイメージが描きやすかったので、早速その通りに作ってみようと思います!


 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、ホタルイカの下ごしらえ。ホタルイカの干物をボウルに張った水に浸けて少し塩抜きをし(←一時間くらいでOKです)、全体が生っぽく戻ったらしっかり水気をきります。
 ※ホタルイカの出汁が出た戻し汁は、里芋or大根の煮物のベースに再利用すると、味がぐっと深まりますのでおすすめです。
ホタルイカのブランダード1
ホタルイカのブランダード2
ホタルイカのブランダード3
 このホタルイカを、あらかじめオリーブ油を引いたフライパンで炒めて冷ましておいたにんにくのみじん切りに加え、にんにくの風味をなじませておきます。
 このにんにく和えホタルイカと、牛乳、生クリームをフードプロセッサーに投入し、ちょっと粒が残るくらいのペースト状に仕立てます。
 これで、ホタルイカの準備は完了です。
ホタルイカのブランダード4
ホタルイカのブランダード5
ホタルイカのブランダード6
 次は、混ぜ作業。
 茹でた後皮をむいて潰したじゃがいもが入ったボウルへ、先程のホタルイカのペーストを加え、全体にホタルイカの旨味が行き渡るようヘラでさっくりかつ丁寧に混ぜ合わせます(←この時うっかり練ってしまうと、変に粘りのあるじゃがいもになってしまいますので、練らないよう注意します)。
 均等にホタルイカのペーストが混ざりきったら、バターを塗った耐熱皿に盛り付け、高温に熱したオーブンで約十分焼きます。
ホタルイカのブランダード7
ホタルイカのブランダード8
ホタルイカのブランダード9
 表面が軽く焼けて香ばしくなったらオーブンから取り出し、仕上げにちぎったローズマリーの葉とピンクペッパーを散らせば“ホタルイカのブランダード”の完成です!
ホタルイカのブランダード10
 ホタルイカの濃いピンク色がじゃがいも全体に染まっているのがかわいらしい感じで、思ったよりもカラフルな出来になりました。
 ローズマリーやピンクペッパーの風味もいいのですが、ホタルイカから漂ういい意味でのイカ臭さがそそる感じで、思った以上にホタルイカが前面に出た仕上がりになってます。
 ホタルイカの干物はもちろん、ブランダードを食べるのも初めてなので緊張しますが、一体どんな味なのか食べてはっきりさせようと思います!
ホタルイカのブランダード11
 それでは、フランスパンの上にたっぷりぬっていざ実食!
 いっただっきま~すっ!
ホタルイカのブランダード12


 さて、味はと言いますと…目には見えなくても、舌にガツンと響いて主張してくるホタルイカの存在感に感動!予想以上にこってりした味わいでびっくりです。
 スルメの出汁にそっくりな奥深い旨さは勿論、ホタルイカのワタのほろ苦いコクが隅々まで行き渡っている為、まるでイカのゴロ焼きかワタ入り塩辛みたいに濃厚な味わいで、潮の香りが強いのが特徴的です(←あと、ワタの油分と生クリームが複雑に入り交じっているせいか、魚卵を彷彿とさせるまろやかな旨味が生まれていてびっくりしました)。
 一口食べた感想は「シンプルなイカのペペロンチーノポテサラ」というイメージだったんですが、じっくり味わうと「クリーミーなイカ入りタラモサラダ」と例えたくなるような美味しさに変化する感じで、面白かったです。
 滑らかな口当たりのじゃがいもペーストの中に、水で戻されて半生状態になったホタルイカのプリプリ粒々した食感を感じるのが癖になり、後引く仕上がりになっているのがナイスでした。
 そのままでも十分美味ですが、これをしっかりした歯応えで香ばしいフランスパンに乗せて食べると、すぐ口の中へ広がらずパン生地と共にギュッと噛み締められる分、よりホタルイカのエキスやじゃがいものホクホク感が際立つ感じでよかったです。
 ローズマリーのミントに近い清涼感を帯びた華やかな風味と、ピンクペッパーのパキッと弾けて広がるバラのように甘やかな香りやわずかな辛味が目先を変え、程よいアクセントをプラスするのがいい感じでした。


 一つ注意点があるとするなら、これは必ず出来立てをその日の内に食べてしまうという事で、二日目以降は嫌な癖がついて妙に苦みがクローズアップされますのでおすすめできません;。
 粗挽き黒胡椒をふったり、バタートーストに乗せてみると、また違った感じで美味です。

P.S.
 ましろさん、先日は非公開コメントにてご質問して下さり、ありがとうございます。はい、ご推察通り私が在籍していた学校が採用していたのは、光村図書の教科書でした。私も、県が離れていたら教科書も大分違うのではと考えていましたので驚きましたが、当時の感覚を共有できる方からコメントを頂けて、とても嬉しかったです。ふつつかなブログと管理人ですが、ご縁がありましたらまたお目を通して頂けますと幸いです。

●出典)『最後のレストラン』 藤栄道彦/新潮社
●参考資料)『土方歳三 - 新選組を組織した男』 相川司/中央公論新社

※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

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Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
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※現在、公私の多忙と、再現記事のペース維持を理由に、コメント欄へのご返信が出来ない状態が続いております。
 こういう場合、コメント欄は停止するべきなのかもしれませんが、励ましのお言葉やアドバイスを頂く度、ブログのモチベーションアップや心の支えとなったこと、そして率直なご意見や情報を聞けてとても嬉しかったこともあり、誠に自分勝手ながらこのままコメント欄は継続する事に致しました。
 図々しい姿勢で恐縮ですが、ご返信をこまめに出来なくて余裕がある分、ブログ内容を充実&長期的に続けられるよう力をいれる事で皆様のご厚意にお応えし、感謝の気持ちをお返ししていきたいと考えております。
※ただ、ご質問を頂いた際はなるべくお力になれるよう、すぐご返答できるように対処致します。

 応援して下さる方々に少しでも楽しんでご利用して頂けるよう、沢山の作品に触れるちょっとしたきっかけになれるよう、これまで以上に心掛けていきます。
 恐れ入りますが、よろしくお願い致します。

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