クレオパトラについての考察

ムスカの考察が最初の草稿の10分の1も書けないことに苛立ってきましたので、気分転換に前々から気になっていたクレオパトラについて考察してみようと思います。

プトレマイオス王朝最後の女王・クレオパトラ。彼女の美貌(同世代の歴史家には「見る人を驚かす程の物ではなかった」と書かれているが)・莫大な富・神がかった逸話は多くの人が書き残しているし、私はそれらにほとんど興味が無いので、今回検証するのは「本当に彼女は女王に相応しい知性を持っていたか」という一点のみにしようと思う。

一般に彼女は、とても知性的な女性だったと言われている。
確かに、頭は良かった。歴代王の中で庶民の言語を解したのは彼女一人であったし、その他にも7ヶ国語操れたと言う。そして頻繁に訪れたという、70万巻もの蔵書をもつ巨大な図書館を備えたムセイオンでの読書で幅広く身につけた知識。簡単な読み書きしか教えられなかった当時の女性たちの中では、まさに一、ニを争うほどのIQを誇ったことは間違いない。
しかし、ここで改めて主張したいのは、学力=知性とは一概に言えないということである。その証拠に、学力NO1であるはずの某大学出身や某政治家たちの中で知性ある振る舞いをする人間は皆無に近いではないか。
私は、彼女には次の知性が欠けていたように思えてならない。
「現状認識力」と「本質を見抜く力」、そしてそれらをするのに不可欠な「冷静な思考力」である。

1、「現状認識力」欠如の根拠
当時のエジプトはローマの同盟国であったが、それはエジプトに力があったから独立できていた訳ではなく、この地域独特の統治方法にあった。すなわち、「神の子」が民を支配しなければならないという何百年にもわたるエジプト民たちの意識である。わざわざ王政を打倒して属州にし、「人間の子」であるローマ市民を総督に据えて余計な反発をくらうよりは、彼らの納得する統治を王にやってもらい、その王を管理する方が長期的平和に現実的という元老院議員たちの判断があったからに過ぎない。それに、同盟国ならば内政と自国防衛の為の出費もしなくてすむ為、経済的でもあった。そんな思惑だけで、彼らの王政は成り立っていたのである。
ところがクレオパトラは、そうは思わなかった。自分たち王と富を恐れてのことと、勘違いしてしまっていたのである。そして、この「自由に踊っているつもりが踊らされていた」状態を見るどころか最後の最後まで分かろうとしなかった事が、プトレマイオス王朝滅亡の最大の理由であったのでは、と私は考えている。実際、一同盟国として満足していたならば、迎える必然性も無かった滅亡だったからである。
2、「本質を見抜く力」欠如の根拠
彼女の全盛期の時の愛人であるローマの覇者・カエサルが暗殺された時に公開された遺言状に、彼女自身やカエサルの間の子であるカエサリオンについて全く記述されていなかったことが彼女を絶望と怒りに駆らせたという史実が残っている。その時のコンプレックスか、後に既に結婚していたアントニウスであったのに自分と二重結婚させ、アントニウスとの間に生まれた子供たちも嫡子と認めさせたりしている。
しかし、彼女は分からなかったのであろうか。愛人のままで息子も認知しない方が、クレオパトラの末永いエジプト王位の為には一番良かったと言う事実が。
何といっても、エジプトの存亡を握るのはローマ市民である元老院や後の初代皇帝(カエサルが指名していた)アウグストゥスである。彼らを刺激しないことが、その気になればいつでも軍事制覇の出来る風前の灯である王朝存続の、最大の鍵だったのである。
確かにアントニウスは、クレオパトラを熱愛した。最期も彼女の膝の上であることを望み、そのまま果てた。しかし元老院の反応も考えずに簡単に二重結婚をし、後先見ずに戦乱を起こしていったアントニウスよりは、親子の安全と平和を考えて行動したカエサルの方がクレオパトラを尊重し、より深く愛していたのではないであろうか。
だが、結局分かりやすい愛情しかクレオパトラは見ようとしなかった。表面に現れない深い愛情より、目に見える感情的な愛情を選んだ。
私も正直、悩むところはある。これはもう、全ての女の課題であるのかもしれない。
3、「冷静な思考力」欠如の根拠
知性の欠如、と言うよりはむしろ狂っていたとしか言いようの無いエピソードがある。
アントニウスのアレクサンドリアでの凱旋式である。
凱旋式はどこでもやればいいと言うものではない。ローマの神々のいる首都の丘にある神殿で感謝の祈りを捧げ、丘を降りたらローマ市民達に「凱旋将軍万歳!」と正式に認められることにこそ凱旋式の真の意味があったのだ。ローマ市民がいて、彼らを守護する神々が住まう地・首都ローマでないと、挙行する意味がない。この情報はローマ市民の感情を逆なでし、半エジプト感情を過半数に押し上げた。
もし彼女がローマ固有の文化に対抗するつもりで挙行したのなら、相当の愚挙としか言いようがない。そして、それに賛同して実行したアントニウスも「肉体どころか頭まで獣並」と市民達に侮辱されても仕方がない。他国の文化を理解はしなくても尊重する事こそが、知性の証だからである。
その上アントニウスは、ローマに何の許しも得ずにローマの属州の大半をエジプト女王クレオパトラの所有にし、何と同盟国も与えると宣言した。そしてローマの元老院にはカエサリオンもカエサルの嫡子なのだからアウグストゥスの地位を分けるべきである、したがってローマを東西二分にしろという文書を元老院に送りつけた。
元老院議員たちはあまりの事に呆然としていたが、アウグストゥスは冷静に「エジプト属州化の為に軍を発動」と決めて行動した。
こうして、クレオパトラは自らの手でわざわざ破滅を招いたのである。

私にはどうしても、彼女に一国を背負う覚悟も度量も、ましてや知性があったようには思えない。
一人の女としてはなかなかの人生ではあったと思うが、このような女王を持ったことはエジプトにとって災難以外の何者でもなかったと考える。

しかし、彼女の人生で、私が唯一好きなところがある。
アウグストゥスへの誘惑を諦め、毒蛇にかまれて死ぬところだ。
当時のローマは寛大路線が敷かれていたため、殺されることなくローマの一地方でのつつましやかな年金生活が待っていたであろうのに、彼女はその生を否定し、女王として死ぬ事を選んだ。
その潔さが、悲しくも美しいので、何となく救われる。

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