『花散らしの雨―みをつくし料理帖』の“ありえねぇ”を再現!

 これは、私が小学二年生だった頃のお話。算数の時間、先生から「猫の体重を計ろうとしても逃げて計れない場合、どうすれば一番正しく体重が計れるでしょう?」という問題が出された事がありました。通常、算数の時間は大抵つまらなさそうな顔をするのがデフォだった同級生達は一気に楽しそうな表情になり、班ごとに「煮干しでおびき寄せる?」「いや、それならカツオ節の方が軽くて体重計に影響ないからいいよ」「うちの猫はうどんが好きだから、それだな」「体重計をぴったりはまる囲いで覆って、そこへ猫を入れて強制的に計るのは?」「猫にお座りを教えたら確実だと思う」などと大盛り上がり。結局、あまりの盛り上がりっぷりに答え合わせは授業が終わる数分前に行われたのですが、先生が苦笑いをしつつ言いにくそうに「A君と猫が体重計に乗って重さを計り、その合計の重さからA君の体重を引けば簡単に猫の体重が分かります」と正しい解答を口にした瞬間、みんな「…Σ(゜Д゜)!」という顔になっていました;。
 どうも、幼い子どもの発想力はとんでもない物があると感じる管理人・あんこです。

 本日挑戦する再現料理は、『花散らしの雨―みをつくし料理帖』にて主人公・澪ちゃんが初夏の季節に新しく考え出した新しいお料理・“ありえねぇ”です!
『花散らしの雨―みをつくし料理帖』
 みをつくし料理帖シリーズの第二弾に当たる作品・『花散らしの雨―みをつくし料理帖』は、物語にこれといって特筆すべき事件が起きない為、比較的のんびり読み進めることが出来る巻です。かと言ってもちろん全く何もないわけではなく、時折小さな事件(白味醂との出会い、ちらつく野江ちゃんの影、流行り病騒動など)があったりするのですが、根本的にストーリーを揺るがすような進展はあまりないので、いわば閑話休題に当たる巻ではないかと個人的には感じます。
 一話ごとに後々重要な役割を果たす事になる新しいキャラクターが次々と登場したり、当時の風俗が垣間見えるさりげない小ネタが随所に挟まれていたり、季節の移ろいと共に澪ちゃんが色々悩みつつ考え出す新料理がそそる解説と共に紹介されていたりと、気がつけばにやにやしながら最後のページまで読みすすめてしまう魔力があるので、なかなか侮れない一冊です。澪ちゃんやつる家の面々の平凡ながらも賑やかな日常が活き活きとした文面でつづられていますので、ほのぼの日常系の作品がお好きな方にはたまらないのでは…?と読んでいて思いました。あと、蛇足になりますが当管理人的には、作中のあちこちでつる家の老店主・種市さんが澪ちゃんのお料理の味見をしては「これは滅法…!」「う、旨ぇ!こりゃ旨過ぎるよぅ、お澪坊!」「いけねぇ、こいつぁいけねぇよ(´Д`*)!」とあまりのおいしさに歓声を上げる様子が非常にそそられます(その為、お腹がすいている時に読むのは危険です;)。
 今回再現する“ありえねぇ”も、種市さんが「旨ぇ!」と感動した一品。ちなみに、“ありえねぇ”とは一言で言ってしまえば「タコときゅうりの酢の物」です;。元はといえば、澪ちゃんが病み上がりの長屋仲間兼つる家の運び手・おりょうさんに元気になってもらいたいとその身を思いやって聞き出した「さっぱりときゅうりの酢の物が食べたい」という一言がヒントとなって作り出された新しいお料理です。作り方はそこそこ簡単で、タコときゅうりを味醂やだし汁で風味よく仕上げた合わせ酢で和え、その上に新しょうがをやや多めに盛りつけたらもう出来上がりです。作中の解説によると、どうやら当時の江戸ではタコの旬は冬の酢だことされていたそうですが、澪ちゃん曰く「大阪では夏の、実の柔らかなタコが好まれる」だそうで、タコときゅうりの組み合わせは酢味噌・辛子和え・酢の物のどれでもぴったりな最高の組み合わせだと書かれていました。
 当初はおりょうさんのリクエスト通りのシンプルな酢の物を作る予定だったんですが、作中の時間軸ではそろそろ本格的な夏を迎えようとしていたまさにその時だったので、夏のうだるような暑さの中でもしっかり食べてもらえて食養生になるようなお料理をおりょうさんやつる家のお客さんにも食べてもらいたいと澪ちゃんは考え、急遽予定を変更してこの“ありえねぇ”という夏の新定番を生み出したのでした。いついかなる時でもお客さんの健康を気遣ったお料理作りをする澪ちゃんの心栄えが反映された、ほほえましいエピソードだと思います(^^*)。
 名前だけ聞くと、澪ちゃんにしては珍しく随分乱暴な名前…と頭の中がはてなだらけになってしまいそうですが、それもそのはずで、実はこの名前を勝手につけたのはつる家のお客さん。気の荒い根っからの江戸っ子が多いつる家の常連さん達は、旬から外れた食べ物に対してかなり辛辣な評価でもズケズケと言い放つ癖の強い方ばかりな為「タコってなぁ冬のもんなのによ」「夏のタコなんざ食うもんじゃねぇ」と当初は散々馬鹿にしたものの、食べてみると思わず「ありえねぇ!」と叫んでしまう程予想以上に美味しかったので、最初のインパクトの強さからごく自然に“ありえねぇ”と呼ぶようになったとの事でした。それにしても、お料理にしては相当に変てこりんな名前ですので、“ありえねぇ”という名前で江戸中にどんどん評判が広まっていくのを、喜んでいいのか悲しんでいいのか困ってしまう澪ちゃんが少々気の毒でした;。正直、私も自分が苦心の末に作った料理にそんなネタっぽい名前をつけられたら途方に暮れてしまいそうです(・∀・;)。
 タコに豊富に含まれているタウリンは栄養ドリンクの成分となっているくらい疲労回復に役立つ成分ですし、何よりお手軽に作れるのに惹かれたので、早速再現してみようと思います!

 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、食材の下ごしらえ。きゅうりは薄い小口切りにした後塩をふってなじませ、時間が経ってしんなりしてきたらさっと揉み洗いし、最後にお酢をふって軽く酢洗いします。ちなみに酢洗いとは、酢の物にする前の素材に酢か酢水をかけて混ぜ、きゅっと絞って水っぽさを消すという昔からある技法です。たったこれだけでも材料の酢の馴染みが断然よくなるので、おすすめです(←…となにやら偉そうに言ってますが、当管理人自身この作品で初めて学びました;。勉強不足を猛省orz)。
ありえねぇ1
ありえねぇ2
 タコは茹でられている物を流水でささっと汚れを簡単に洗い流し(あんまり水につけてしまうと旨みが抜けてしまうので、要注意です!)、キッチンペーパーで優しく丁寧に拭いたらそぎ切りにします。一方、新しょうがは皮をむいてごく薄切りにし、何枚か重ねて針に似せた細い千切り状にしたら水を張ったボウルにはなっておきます。
 ※しょうがは、この料理に限って言うなら一年中出回っている物よりも、新しょうがを全力で推奨させて頂きます!というのも、新鮮な新しょうがは“ありえねぇ”の影の主役と言ってもいいくらい美味ですので、一度お試しして下さると幸いです。
ありえねぇ3
ありえねぇ4
 次は、特製合わせ酢作り。最初に、あらかじめ昆布とカツオ節で濃い目の出汁をひいておき、清潔な布巾で漉した後に別の器へ入れて人肌になるまで冷まし、一旦冷蔵庫でちょっと冷やします。実は、日本の合わせ出汁は時間が経てば経つほど劣化するのであまりよくないのかもしれませんが、酢の物に使うお出汁は冷やした方が無難だと思うので今回は冷やしちゃいます(あまったお出汁は、同じく『花散らしの雨―みをつくし料理帖』に出てくる“冷やし茄子”と普通のお味噌汁で再利用しました^^)。
ありえねぇ5
ありえねぇ6
ありえねぇ7
 ボウルへ先程の合わせ出汁、酢、醤油、味醂、塩を加え、よく混ぜます。味見をしてちょうどいい塩加減になっていたら、特製合わせ酢は準備完了です。この時、気をつけるポイントは合わせ酢の色合い。通常の三杯酢のように醤油を酢や味醂と同量入れてしまうと、どうしても重い色になって夏にぴったりな涼しげな色にはならないので、塩分は塩、旨みは合わせ出汁で調整する事を心がけます。作中でも澪ちゃんが特に気にかけていた部分ですので、調味料は慎重に合わせるが吉です。
ありえねぇ8
 この特製合わせ酢に、用意しておいたきゅうりとタコを投入してザッと混ぜ合わせ、そのままラップをして冷蔵庫で適度に冷やします。江戸時代には冷蔵庫がないので、より忠実に再現するならこのままがベストなのですが、やはり酢の物は冷えている方がおいしいので冷やす方がおすすめです(^^;)。
ありえねぇ9
 きゅうりとタコがひんやり冷えたら合わせ酢ごと器へ盛りつけ、仕上げに水気をきっておいた千切り新しょうがを天盛りにすれば“ありえねぇ”の完成です!
ありえねぇ10
 きゅうりの緑色、タコの小豆色に、新しょうがの淡い白色が映えて如何にもおいしそうです。澪ちゃんが言っていた通り、醤油があんまり入っていない薄い合わせ酢を使用した為すっきりした色合いで、これぞ暑気払いに食べるのに最適な酢の物って感じでした。夏のタコは江戸では好まれないと作中では語られていましたが、こうして見ると十分ありだと思います。
ありえねぇ11
 それでは、お箸でざっくり持ち上げていざ実食!いただきま~す!
ありえねぇ12

 さて、味はと言いますと…酢の物にしては驚くべき程穏やかな味!常連さん達が「ありえねぇほど旨ぇ」と叫ぶ理由が分かる気がしました!
 ムチムチクニクニと噛み応えのある弾力に富んだタコと(吸盤のコリコリした歯応えがまた良し!)、パリパリした張りのある歯触りのきゅうりという対照的な口当たりの食材が互いを程よい引き立てあっており、次から次へと箸が進みます。出汁が入っている分三杯酢よりも酸味が控え目でツンとくる感じがなく、そのまま飲んでもむせる事なく上品かつまろやかな甘酸っぱさをしみじみ堪能出来るのが印象的でした。酢の物なのにゴクゴク飲めちゃうくらい後口がかなり柔らかで、そのくせさっぱり感やすっきり涼しげな味わいはそのままだったのが嬉しかったです。程よく旨酸っぱい合わせ酢が喉をスルスル心地よく通って体を冷やしていく為、暑い時には何よりのご馳走だと感じました(例えるならば、冷やし酢辣湯を飲んだ時の醍醐味に似ています)。
 針しょうがは意外にもそこまで辛くない上、生の新じゃがを千切りにした物とそっくりなクサクシャキッと軽やかな食感が美味で、全体の爽やかさを増すのに一役かってました。タコのあっさりした旨味エキス、きゅうりのひんやりした汁気、針しょうがの鮮やかな風味を酢が一つにまとめあげて引き締めており、単に和えるだけでは出ない統一感が出ていたので感心です。あんまり食べやすくておかず感覚で平らげられちゃうので、副菜というよりは主菜その2って感じで用意した方がいいかもしれません。

 今回の再現で地味にびっくりしたのは、旬を迎えた新しょうがのおいしさ。「これが、普段薬味にしているあのしょうが?!」と目を見張ってしまうくらいシャキシャキした食感と、辛くもなく苦くもなく、ただただ爽やかな後味に仰天しました。本格的な夏が到来する前に、この“ありえねぇ”を晩酌時に食べて健康な体作りに努めようと思います。

●出典)『花散らしの雨―みをつくし料理帖』 高田郁/角川春樹事務所
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2011.07.01 Fri 13:08  |  

いつも更新楽しみにしてます(o^-')b

みをつくし料理帖、本当に面白いですよね。
私も親からこの本を勧められてハマってしまいました(´v`*)

他の料理の再現も楽しみにしてま~す( ゚∀゚)o彡°

2011.07.16 Sat 19:38  |  kimaさん、こんばんは。

当ブログの管理人・あんこです。
コメントをして下さり、ありがとうございます。

更新を楽しみにして頂いているとのお言葉、大変嬉しかったです。
私も『みをつくし料理帖』シリーズは大好きですので、
同じご意見の方と出会えて内心盛り上がってしまいました;。
kimaさんのご両親に、感謝です(^^)。

これからも色々な漫画料理を再現していきますので、
お手隙の際に又読んで頂けますと幸いです。

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・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
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 …『百姓貴族』
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 …『飯盛り侍』
 …『夢色パティシエール』


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