『花散らしの雨―みをつくし料理帖』の“忍び瓜”を再現!

 『キャプテン翼』のスカイラブハリケーンを真似した子どもは大勢いる…というお話を聞いても、それまでは「いやいや、都市伝説に違いない…」とつい最近まで考えていましたが、数ヶ月前に相方さんから「俺の友達で試したヤツいるよ」と聞いてびっくりしました。子どもの好奇心って果てを知らないんだな~としみじみ思い知らされます。ちなみにそのお友達二人の内一人は足を骨折してしまったとの事…(((゜Д゜;)))ガクブル。
 どうも、その他にも『ドラゴンボール』のフュージョンごっこも流行ったと聞いて「それは分かる気がする」と思った管理人・あんこです。

 今回再現する漫画料理は、『花散らしの雨―みをつくし料理帖』にて主人公・澪ちゃんがお武家のお客さんを呼び戻す為に考え出した夏の新定番・“忍び瓜”です!
『花散らしの雨―みをつくし料理帖』
 前回、“ありえねぇ”というタコときゅうりを使った涼しげな酢の物を考え出して<つる家>のお客さんを虜にした女料理人・澪ちゃんですが、どういった訳か武士のお客様は例外なく“ありえねぇ”を一目見るなり怒ったように顔をしかめて一切手を付けずに帰ってしまうという事態が勃発し、遂には<つる家>自体にお武家の方は全く足を運ばなくなってしまった為澪ちゃんは途方に暮れてしまいます。<つる家>の近所はお武家屋敷がたくさんある土地柄なので、お得意さんである武士のお客さん達が来なくなる事は一大事。澪ちゃん達は必死に原因を考え、その末にちらりと「そういえば、京にある祇園社の氏子達は御神紋が木瓜紋である事を理由にきゅうりを食べないけれど…」という信心によるきゅうり断ちを思いだしますが、根っからの江戸っ子である老店主・種市さんから「江戸の侍が揃いも揃って、遠く離れた京の祇園社の氏子って訳はないさね」とあっさり一刀両断された為、お武家さんたちが何故きゅうりを食べるのか分からないままじりじり時は過ぎてしまいます。
 けれどもその後、澪ちゃんの考えは結構惜しい発想だった事が分かります。というのも、祇園社の御神紋だからという理由ではないものの、きゅうりの断面にある三つの丸い模様は江戸の侍達が忠義を誓う徳川将軍家の家紋・三葉葵にそっくりで、「公方様の御紋に似た食べ物を、家臣である自分が食べるのは畏れ多い」という理由で直参旗本から下流武士に至るまで江戸の侍達は断固としてきゅうりを食べない、というある意味忠誠心から来るきゅうり断ちだったからです。正直、現代に生きる侍でも何でもない九州住まいの当管理人には忠義の証としての食断ちはどうもピンときませんが、澪ちゃん同様その一途な行動には「何と律儀な」と感嘆させられます。さっぱりしていて歯ごたえのいいきゅうりは食が進みにくい時でも口に入りやすく、冷たく冷やして食すと夏場には質素ながらも何よりのご馳走だと思うのですが、至高の存在を敬うあまりにおいしい物を我慢する強靭な精神は天晴れだと思います。ふと、大学時代の講義や漫画『ダシマスター』でちらりと紹介された歌舞伎・『伽羅先代萩』のある武家の子どもが言った「侍の子というものは、ひもじいめをするのが忠義じゃ」「お腹がすいてもひもじゅうない」という印象的な台詞が頭の中をよぎりました。不器用かもしれませんが、これと決めた事にはテコでも動かない頑ななまでの精神力が根底にあったからこそ、日本の文化と国力は一時期他国を圧倒する物にまで成長したのかもしれません。
 後に、澪ちゃんは越瓜を干して作る「雷干し」のお料理を出す事で武家のお客さん達をぽつぽつと呼び戻しますが、それでも美味なきゅうり料理を食べてもらえたら…という気持ちは心の隅に残り続けます。そんなある日の昼、炎天下だというのにお客さんがひっきりなしにやってきてとても慌てていた澪ちゃんは気が動転し、何と乱切りにしたきゅうりをお湯の中へプカプカ浮かべてしまうという失敗をしてしまいます。どうしようと慌てふためいている時、これまた種市さんも気が動転していたのかまだ手付かずだった合わせ酢の器を澪ちゃんに差し出し、きゅうりを放り込ませてしまいます。その場はお互い「やってしまった!」という照れ笑いをし合う事で話は終ったのですが、お店が終った後に澪ちゃんがもったいないという理由で茹できゅうりの合わせ酢漬けを食べた時、てっきりグニャグニャになっているとばかり思っていたきゅうりが信じられないほど歯ごたえがよくなっているのを発見し、「これはもっと美味しくなる!」と確信した澪ちゃんは数日かけてさらに美味しくする為に試作を繰り返します。そうして最終的に完成したのが、この“忍び瓜”です。
 作り方はものすごく簡単で、一言で言ってしまえばすりこぎで叩き割ってさっと茹でたきゅうりを、鷹の爪・ゴマ油・酢などで作った合わせ酢に加えて約一時間近く冷やせばもう出来上がりです。一回すりこぎで叩く事によって武士が「畏れ多い」と思うきゅうりの三葉葵に似た模様が崩れて分からなくなる上味がしみこみやすくなりますし、何より茹でて段違いに歯ごたえがよくなったきゅうりとピリ辛ごま油の漬け汁は相性も最高との事で、<つる家>の“忍び瓜”は一般のお客様はもちろん、お武家様にも好評な一品になるのでした(^^)。
 ちなみに、“忍び瓜”という名前は「お侍もつい、隠れてこっそり食べに来てしまうような料理に」との願いと、澪ちゃんの密かな片思いの相手・小松原様にも密かに食べに来て欲しいという想いを込めて澪ちゃんがつけたもの。その祈りが通じたのか、“忍び瓜”はお侍さん達にも人気、小松原様にもやんちゃな子どものように夢中になって食べてもらえていたので、読んでいて内心ほっとしました。
 これからの季節、きゅうりをもっとおいしく沢山食べたいと思っていた矢先でしたので、早速巻末レシピ通り再現してみようと思います!

 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、きゅうりの下準備。きゅうりはよく水洗いをして汚れを落とした後、まな板と塩を使ってゴリゴリと板ずりします。この作業をする事によって味がずっと染みやすくなるので、割としっかり塩をきかせてする事をおすすめします。手が荒れやすい方は、ゴム手袋をしてやるとぐんと手に負担がかからなくなります(ただ、ゴム手袋は少々痛むのが難点;)。
忍び瓜1
 この板ずり済きゅうりをすりこぎでバンバンと叩いて繊維を壊し(叩きすぎに注意!)、ヘタを切り取って四~五等分に切り分けます。叩き終わりの目安は、指で押して「ちょっとグラグラしだしたかな?」というくらいが
頃合いだと思います。
忍び瓜2
忍び瓜3
 きゅうりの断面を見て件の模様が崩れているのを確認したら、グラグラに沸かした熱湯でさっと湯がき、すぐにザルにあけて取り出します。その際、あんまり湯がきすぎても微妙な歯ごたえになるので数十秒で引き上げるのがお勧めです。
忍び瓜4
忍び瓜5
 この熱々のきゅうりを、あらかじめ酢、醤油、砂糖、ごま油、カツオ節と昆布の出汁、水で戻して種を取った後小口切りにした鷹の爪をよく合わせて作っておいた特製合わせ酢が入っているボウルの中へ一気に放り込み、ざっと混ぜて約一時間冷蔵庫でキンキンに冷やします(もしくは数十分~一晩迄、お好きな浸け時間を模索するのがベストだと思います^^)。
忍び瓜6
忍び瓜7
 きゅうりが芯まで冷えて味が染みているのを確認したら取り出し、そのまま漬け汁と鷹の爪ごと器へ盛りつければ“忍び瓜”の完成です!
忍び瓜8
 味が染みた方が好みなので二~三時間浸けていたら、何だかイマイチそそらない色になってしまいましたorz。ただ、うっすら茶色がかったきゅうりの緑色に鷹の爪の鮮やかな赤色が映え、見るからに食欲をそそる配色になっているのが救いです。漬け汁からほのかに漂うゴマ油の香りがいい感じで、写真を撮っている間中たまらない気持ちにさせられました;。
忍び瓜9
 それでは、きゅうりがまだ冷たい内にお箸でつまんでいざ実食!いっただっきまーす!
忍び瓜10

 さて、味の感想ですが…とにかく、信じられないくらい歯に心地いい歯触りで美味しっ!夏にふさわしい涼しげな一品です!
 「パキパキ、パリッ」「カリカリ、コリコリ」「ボリボリッ」など、多種多様な小気味良い食感が口の中で鮮やかに響き渡り、噛み砕くごとに快い爽快感が味わえます。うまく言えませんが、強引に例えるならばハリハリ漬けを囓る時のあの張りある食感に通じる物があるように感じました。一回火を通して冷やす事により、生の時よりも歯応えが飛躍的に向上したひんやり冷たいきゅうりが何とも爽やかで、程よく割れ目がはいっているおかげで味がよく染みて食べやすくなっているのに感心させられます。合わせ出汁のふくよかな旨味と酢のさっぱりした酸味がじんわり舌を刺激した後、唐辛子のピリッとくる辛さやごま油の香ばしいコクがゆったり広がっていくのが絶妙で、あっさりしているようで濃厚な甘辛酸っぱい後味が病み付きになりそうでした。
 完全に和風というよりはどことなく和中折衷的な味わいで、一口漬け汁を飲むと「中華風の酢の物かな?」と一瞬思うのですが、徐々に浮き上がってくるカツオ節のキリリとした風味と昆布の優しい旨味が和風らしさを強調しています。浅く漬けたきゅうりはパキパキした歯触りの妙、よく漬けたきゅうりは隅々まで味がなじんでいるきゅうり自体の味が楽しめる感じで、思わず漬け汁まで飲み干してしまう程完成度の高い一皿でした。冷やし中華風に麺を入れて食べてみるのもありかもしれません。

 うだるような暑さで食欲が出ない時でも、一度食べたらあと一口、もう一口と芋づる式に手が出てしまいそうなくらいおいしい小鉢です。巻末レシピによると、白ゴマをふってもまたおいしいらしいので、近い内に試したいと思いました。手間要らずな上に材料費がほとんどと言っていい程かからないのであまりお金がなくてもでも気軽に作れますし、これからの季節繰り返し再現したいです。

●出典)『花散らしの雨―みをつくし料理帖』 高田郁/角川春樹事務所
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2011.07.14 Thu 10:20  |  作ってみました

毎日楽しく拝見して、ご飯のヒントをいただいています。
忍び瓜作ってみたところ、おいしくて夫にも好評でした!
あわせ酢が残ったので、今度はレンジでチンしたナスをつけています。
これからも、更新楽しみにしています。

  • #.RwVeNmU
  • URL
  • Edit

2011.07.19 Tue 22:30  |  鯛さん、こんばんは。

当ブログの管理人・あんこです。
コメントをして下さり、ありがとうございます。

現役の奥様にご飯の参考にして頂けているなんて、
正直ものすごく光栄で嬉しい気持ちになりました(・∀・*)!
忍び瓜は簡単な割りに凝った味がして、一旦食べると
ついついお箸がとまらなくなる味なのがいいですね。
それにしても、鯛さんのように残った合わせ酢にナスを浸けると
いう発想はなかったので感心しました。今度、私も試させていただきます。

これからも色々な漫画料理を再現していきますので、
お手隙の際に又読んで頂けますと幸いです。

  • #-
  • あんこ
  • URL

2011.07.20 Wed 02:21  |  

忍び瓜は作中での描写がすごく美味しそうで、読んですぐ試してました。
最初はまさに「湯がきすぎて微妙な歯ごたえ」になってしまいましたが。

みをつくし料理帖は9月に作者様参加の料理教室をやるようですが、生憎平日な上に大阪で開催なので行けそうもないのが残念です。
この忍び瓜も作るみたいですね。

  • #Wa8vY8KE
  • はむ
  • URL
  • Edit

2011.07.27 Wed 20:59  |  管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • #

2011.08.16 Tue 21:53  |  はむさん、こんばんは。

当ブログの管理人・あんこです。
コメントをして下さり、ありがとうございます。

忍び瓜は、あの食感がいいですよね(^^)。
簡単な割にはちょっとないくらい美味しいですので、
我が家ではすっかり定番料理となりました。
それにしても、作者様参加のお料理教室があるとは…
近場だったら是非参加したかったのですが、無理そうですので残念ですorz。

これからも色々な漫画料理を再現していきますので、
お手隙の際に又読んで頂けますと幸いです。

  • #-
  • あんこ
  • URL

2011.08.16 Tue 22:26  |  チョコさん、こんばんは。

当ブログの管理人・あんこです。
コメントをして下さり、ありがとうございます。

早速お試しして頂けたとのコメントを拝見でき、とても嬉しかったです!
本当に、どうして一回軽くゆがくだけであんなに小気味よい歯ごたえに
なるのか不思議でしょうがありませんが、一旦食べると病み付きになりますよね。
私こそ、チョコさんにそうおっしゃっていただけて光栄でした。
感謝いたします。

これからも色々な漫画料理を再現していきますので、
お手隙の際に又読んで頂けますと幸いです。

  • #-
  • あんこ
  • URL
(編集・削除用)
管理者にだけ表示を許可

Trackback

URL
http://luckyclover7.blog27.fc2.com/tb.php/727-187f7f4e
この記事にトラックバック(FC2Blog User)

プロフィール

Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
 …『テルマエ・ロマエ』
 …『土曜日ランチ!』
 …『BAR・レモンハート』
 …『百姓貴族』
 …『ぶたぶた』シリーズ
 …『ベーグル食べない?~幸せカフェごはん~』
 …『飯盛り侍』
 …『夢色パティシエール』


○当ブログについて
 このブログで使用されている記事の画像、一部文章は、それぞれの出版物等から引用しております。
 引用物の著作権は全て作者様、出版社様等に準拠致します。
 もしご関係者様に問題のある画像及び記事がございましたら、御連絡頂ければ速やかに修正、削除等の対処を致します。

○お知らせ
・当ブログでは作品のネタバレを含んだレビューも同時に行なっておりますので、作品を未見の方はご注意をお願いいたします。
・各作品に掲載されているレシピの分量は、例外なく全て非公開にする方針を取っておりますので、ご了承の程をお願いいたします(←この件についてご質問頂いた場合、誠に失礼ながら下記の理由でご返信しない方針にしております)。

※現在、公私の多忙と、再現記事のペース維持を理由に、コメント欄へのご返信が出来ない状態が続いております。
 こういう場合、コメント欄は停止するべきなのかもしれませんが、励ましのお言葉やアドバイスを頂く度、ブログのモチベーションアップや心の支えとなったこと、そして率直なご意見や情報を聞けてとても嬉しかったこともあり、誠に自分勝手ながらこのままコメント欄は継続する事に致しました。
 図々しい姿勢で恐縮ですが、ご返信をこまめに出来なくて余裕がある分、ブログ内容を充実&長期的に続けられるよう力をいれる事で皆様のご厚意にお応えし、感謝の気持ちをお返ししていきたいと考えております。
※ただ、ご質問を頂いた際はなるべくお力になれるよう、すぐご返答できるように対処致します。

 応援して下さる方々に少しでも楽しんでご利用して頂けるよう、沢山の作品に触れるちょっとしたきっかけになれるよう、これまで以上に心掛けていきます。
 恐れ入りますが、よろしくお願い致します。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

Copyright © あんこ