『想い雲―みをつくし料理帖』の“ふわり菊花雪”を再現!

 当ブログの長ったるい割には不明瞭な文章をご存知の方々はとっくの昔にお気付きだと思いますが、当管理人はお世辞にも仕事が出来るとは言えない人間に分類されます。その為、数年前には「ここが駄目ならどこへ行っても駄目」「やるべき事から逃げて、楽な道を選ぶんだね」と言われて当然の叱責を受け、ある職場を退職した事がありました。その為、辞めた直後はこれ以上ないくらい落ち込んで消え入りそうな心境に陥ったのですが、ある年上の女性に相談した時に返された「その職場が駄目だったからって、何でその後の人生まで全否定されなきゃいけないの。人によって自分が活かせる場や生き方は全く違ってきて当たり前なんだから、それを探そうとする動きを全部逃げとしか決め付けられない奴の言う事なんか気にすんな」「我慢する事は大事だけど、矛盾する事を平気で突き付けてくる人間が幅をきかせる所は、いつでも逃げ出せる準備をしとけ。報われる可能性は絶望的だから」「他人を否定する事でしか自分を肯定出来ない人だと割り切ったらいい。いちいち気にしてたらキリがないよ」という言葉に一種の救いを感じ、肩の荷が少し降りて何とか立ち直り現在があります。もちろん、仕事をする以上は持続する責任感や改善案を追求する姿勢は必要なのは重々承知ですが、おかげでとことん落ち込んで身動きがとれなくなるという事はなくなったので、その方には未だに感謝し続けています。
 どうも、今となっては新卒時に厳しく指導された事を感謝している管理人・あんこです。

 今回再現する漫画料理は、『想い雲―みをつくし料理帖』にて澪ちゃんが江戸の粘りが少ない山芋だからこそ美味しく作れる料理として考案した“ふわり菊花雪”です!
『想い雲―みをつくし料理帖』  澪の鮎飯
 澪ちゃんが江戸にやって来て三年目、“「う」尽くし”を出して大好評を得た夏から数ヶ月経過して秋になった頃、<つるや>にまたもや危機が訪れます。実を言いますと初秋の時、元飯田町へ移転する前の<つるや>があった神田御台所町の跡地で、澪ちゃんに逆恨みをしている<登龍楼>の元板長・末松が澪ちゃん達に無断で<つるや>という屋号を騙り、美貌の女料理人を売りにしたパクリ&ぼったくり料理店を開いてお金儲けをしていた時期があったのですが(料理を作る末松と、それをあたかも自分が調理しているように見せる錦絵風の美人料理人がタッグを組んでいたお店で、味見をする時にわざと口紅を白い小皿につけるなどとお世辞にも食欲をそそられない描写があってつい苦笑してしまいました;。が、よくよく考えれば割高メニューが置いてあるメイド喫茶の先駆け的存在だったのかもしれません。末松、恐るべし!)、そのお店が食中毒事件を起こして人気歌舞伎役者・坂田寿三郎を食あたりで舞台に穴を空けさせた事で澪ちゃん達がいる本物の<つるや>までもが食中毒を起こした不衛生なお店だと江戸っ子達から誤解されて大いに非難され、いっぺんに客足が遠のくという非常に理不尽な事態に陥ってしまいます。おかげでお店は連日閑古鳥が鳴く始末で、それどころだけならまだしも暖簾に泥が投げられる・店先に芥がばら撒かれる・口汚い罵倒を浴びせかけられるなど、<つるや>の面々にとっては苦難の日々が続く羽目になります。はっきり言って、現代でも食品を扱うお店にとって食中毒が起きたという重い事実は余程の大手でない限り死刑宣告に近い物がありますので、正しい情報よりも根拠の無い噂話の方が幅を利かせやすかった江戸時代でこういう事件が起きたら尚更辛い立場だったろうと、読んでいて澪ちゃん達が気の毒で仕方がありませんでした(´・ω・`)。
 何とかしてまた客足を戻したいと悩んだ澪ちゃんは、少し前から構想していた「三方よしの日」をとうとう実行する事にします。「三方よしの日」とは、一言で言ってしまうなら「特別にお酒が飲めるお楽しみの日(三がつく日限定)」で、普段はお酒が飲めない決まりになっている<つるや>で物足りなく感じていたお客さん達にまた来て欲しいと思った澪ちゃんが近江商人の三か条である「売り手よし、買い手よし、世間よし」にちなんで名づけた、新しい試み。これをいいきっかけにして、<つるや>を懐かしむお客さんに勇気を持って足を伸ばして欲しいと考えた澪ちゃんの苦肉の策でしたが、そんな澪ちゃんの必死な想いと努力が通じたのか<つるや>は徐々にかつての勢いを戻していきます。この頃から、吉原の大手廓<翁屋>お抱えの料理人であると同時に、澪ちゃんの生き別れの友である野江ちゃんを影ながら守り続けている料理人・又次さんが「三方よしの日」の度に<つるや>へやってくる事が決まって定期的に登場するようになるのですが、武骨でちょっと怖い一面を持ちつつも本当は優しい心根を持つ又次さんと、ほのぼのしている<つるや>の面々が冬から春に向けて徐々に解けていく雪のようにそろりそろりと打ち解けていく過程がたまらなく温かな感じで、個人的には好きな組み合わせです(^^*)。
 実は「三方よしの日」初日、澪ちゃんは又次さんから店先でひときわ香りのいい食材を焼いて香りでお客さん達を中へ呼び込むという大変効果的な手法を目の前で学び(ちなみに、その際又次さんはなおも「ここは女料理人の店だろ?」といぶかしむお客さんに対して「俺が女に見えるのか?」というシュールな返答をしており、おかげで初見時は思いっきり噴き出してしまいました^^;)、それをヒントにあくる日はカマスの塩干し、またあるあくる日は松茸、またまたあくる日は味噌焼きおにぎりなど次々とそそる食材を七輪で焼き、見事お客さんの胃袋を鷲づかみにしていました。一見単純な戦略に見えるかもしれませんが、人間の五感の中で最も敏感な器官はズバリ「嗅覚」らしいので、とても説得力のあるエピソードだと思います。
 本日取り上げるのは、「三方よしの日」も常連客もすっかり定着してきた頃に、澪ちゃんが江戸でよく出回っている山芋だからこそ美味しく作れる料理はないかと又次さんと意見を交わし合い、夜が更けるのも忘れて二人であれこれ試行錯誤ながら完成させた“ふわり菊花雪”です。作り方は思いの他お手軽で、細長く切ってから布巾に包んで叩いた長芋・軽く茹でた菊花・塩を混ぜたものを合わせ酢で味付けしたヒラメの刺身の上にかけたらもう出来上がりです。澪ちゃんが言うには、大阪で主流だったつくね芋への慕情を「ないものは仕方がない。この山芋だからこそ作れる、ご飯にも熱燗にも合う料理を作りたい」という熱意がきっかけで生まれた一品だそうで、試食した源斎先生によって「山芋は体力が落ちた病人には何より」「菊花には魚の毒を消す力があるのです」と太鼓判を押されていました。
 前々から気になっていた料理で、初めて読んだ時から「秋から冬にかけて、いつか再現したい!」と熱望していた思い入れの強い料理でしたので再現を決意しました。早速、巻末レシピ通りに作ってみようと思います。

 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、各食材の下ごしらえ。長芋はやや厚めに皮をむいてしばらく酢水に浸し、鰹と昆布でとった合わせ出汁・お酢・醤油をよく混ぜて合わせ出汁を用意しておきます。
 ※使用するお酢は特に指定されていなかったので何でもOKですが、なるべく菊の香りを最大限に活かせるようにスタンダードな米酢を使われることをお勧めします。
ふわり菊花雪1
ふわり菊花雪2
 食用菊(黄色と紫色の物がありますが、このお料理では黄色の方を選択します)は花びらをちぎり、色落ち防止の為に塩とお酢を入れて沸かしておいた熱湯へ放ち、さっと茹でたらすぐに冷水へ入れて冷やします。荒熱が取れたらキッチンペーパーか清潔な布巾のどちらかで優しく絞り、余分な水気を取っておきます。
ふわり菊花雪3
ふわり菊花雪4
 酢水に浸けておいた長芋を取り出して包丁で細長い千切り状に切り、清潔な濡れ布巾にしっかり包んですりこ木で慎重かつ丁寧に叩きます。やがて、千切り状だった長芋があらかた細かくなったのを確認したら、濡れ布巾から取り出します(あんまり叩き過ぎても舌触りが残らなすぎて味気ないので、程ほどが肝心です)。
ふわり菊花雪5
ふわり菊花雪6
 この細かくなった長芋をボウルへ加えて塩で味を調え、絞った菊花を投入してさっくり混ぜ合わせます。これで、上にかける長芋は準備完了ですので、あとはラップをかけてから冷蔵庫にいれて冷やしておきます。物が物なだけにあまり日持ちしないので、出来る限りその日の内にすぐに食べるようにした方が無難です。
ふわり菊花雪7
ふわり菊花雪8
 黒いお皿(もしくは小鉢)に薄く切ったヒラメの刺身をなるべく高く盛り付け、上から合わせ酢を回しかけます。なお、ヒラメのお刺身の量が多い場合は重ねる行程の途中で二~三回に分けてかけた方が、まんべんなく味がついて食べやすくなります。
 ※もしヒラメが手に入らなかった場合は、他の白身魚でも代用可能です。
ふわり菊花雪9
ふわり菊花雪10
 ヒラメの刺身に合わせ酢をまんべんなくかけ終えたら、冷やしておいた菊花入りの長芋をふんわりとかけてそのまま食卓へ運べば“ふわり菊花雪”の完成です!
ふわり菊花雪11
 ふわっふわで真っ白な雪状へと変化した山芋に、目にも鮮やかな黄色の菊の花びらが所々に混ざりこみ、何とも言えない高貴な印象を受ける一品です。<つるや>のある常連さんは、一目見て「新造つきの花魁」という表現の仕方をしていますがまさしく言い得て妙で、思わず膝を正してお行儀よく食べなければいけないような気分にさせられるお料理でした。とろろよりもクリームの泡みたいなふんわり感が出ているのが驚きで、一体どういった味がするのか興味津々です。
ふわり菊花雪12
 それでは、山芋とヒラメねっとりと絡め合わせていざ実食!いただきます!
ふわり菊花雪13

 さて、味の感想ですが…今までに食べた事がない新しい味わいで、かなりおいしいです!白身魚好きには堪えられない、どことなく料亭を連想させる一皿です!
 噛み締めるごとに菊の典雅で気品溢れる香気が口の中へスーッと広がっていく為、作中で美緒さんが言っていた通り「とても雅な気持ちになる」感じがします。シャキシャキサクサクと不規則ながらも大変小気味良い食感と、ふんわりトロリとしたなめらかな舌触りが一体化した不思議な口当たりで、これは山芋そうめんととろろのいい所取りをした名調理なのではと思わず舌を巻きました。この程よい粘りがついた菊の香り漂う山芋をヒラメに絡ませて食べると、山芋のヌルヌル感とヒラメのシャッキリ感が交互に押し寄せて来る為、溜め息ものな旨さです。山芋全体にうっすら塩気が効いているのがあっさりしたヒラメの身にちょうどよい味付けを施しており、食べれば食べる程余韻が深まる完成度の高い逸品でした。
 薄くそぎ切りにされてもなおシコシコした弾力のある歯触りを失わないヒラメの淡泊かつ上品な脂が美味で、上からかけたお酢で身がほんのり引き締まっているせいかさっぱり食べられます。鰹と昆布でひいた出汁の奥深い風味と、旨酸っぱい味わいが印象的な合わせ酢がヒラメ本来の奥ゆかしい美味さを見事に引き出しており、品がいいゆえに調味料によってはすぐに半減してしまうヒラメの繊細な味が活きているのに感嘆しました(なので、個人的にポン酢よりも合わせ酢の方がヒラメと相性がいいように感じます)。一言で例えるならば「ヒラメの菊花散らし旨酢山かけ」ってイメージで、ほんの一口で優雅な気分が楽しめる粋な料理でした。

 ヒラメをタイやスズキに置き換えて作ってみても合うとのことですので、四季折々の白身魚を使用してこしらえてみると味に違いが出て面白そうです。また、山芋ではなく大和芋で作ってみても独特の美味しさになるとのことでしたので、機会があれば是非試したいです(ちょっと勿体無いかもれませんが、自然薯を使ってみてもおいしそうですね)。

●出典)『想い雲―みをつくし料理帖』 高田郁/角川春樹事務所
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2011.11.22 Tue 09:24  |  

今回もまたおいしそうですね!
いつも再現料理ととともに、そのマンガの作品しょうかいとあんこさんの日常文とても楽しみにしています。
長ったるくなんてないですしわかりやすいです('-'*)
マンガや日常生活への愛にあふれたステキな文章だと思っています。

  • #-
  • URL

2011.11.25 Fri 18:17  |  こんばんは。

過去の自分を見ることができるということは、前に進んでいるということではないでしょうか。

文章は長い短いで判断されるものではなく、それは陸上で言えば短距離長距離の違いですから、その人のあった長さやリズムがあります。それぞれに魅力があります。ですから、あまり形にとらわれることなく自分の言葉で好きなように書くのが一番だと思います。

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・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
 …『テルマエ・ロマエ』
 …『土曜日ランチ!』
 …『BAR・レモンハート』
 …『百姓貴族』
 …『ぶたぶた』シリーズ
 …『ベーグル食べない?~幸せカフェごはん~』
 …『飯盛り侍』
 …『夢色パティシエール』


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