『花散らしの雨―みをつくし料理帖』の“ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮”を再現!

 近頃、「人の振り見て我が振り直せ」という故事をよく脳裏に思い浮かべます。これは、ある方からそうすれば大抵の事は受け流せるようになれると教わったからなのですが、実際に試してみると劇的に楽になったのでびっくりしました。やはり、人の意見はいくつになっても真摯に受け止めるべきなのだと実感した出来事でした。
 どうも、チャンピオンで連載されている大食い競技をする女の子が主人公の『てんむす』から段々目が離せなくなってきている管理人・あんこです。 

 今回作ってみる再現料理は、『花散らしの雨―みをつくし料理帖』にて澪ちゃんがふきちゃんを勇気付ける為につくったまかない“ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮”です!
『花散らしの雨―みをつくし料理帖』
 種市さんから<つるや>を託された澪ちゃんが、上方料理の精神を宿した創作料理を江戸っ子のお客さん達に食べてもらうようになってから迎えた二年目の春の事。料理番付に載った事からそこそこ名前が知れ渡った<つるや>は数多くのお客さんから愛されるようになってきた反面、その事を面白くなく感じたり嫉妬したりした料理人から嫌がらせや真似をされる機会も必然と多くなってしまいます。世間ではよく「中傷や真似をされるようになったら、その世界では一人前」と言われていたり、実際作中でも澪ちゃんは「同じ手順や材料で作っても、不思議と同じ味にはなりません。料理は、料理人の器量次第。その器量は、真似する事も盗む事も出来ません」と気を強く持って前向きに頑張っていますが、愛読者としては嫌がらせシーンを見るたび「あー大丈夫かな、心配だな」と毎回ひやひやさせられています;(このドキドキ感は、懐かしのドラマ『おしん』や『家なき子』を視聴する時以来かもしれません)。
 その中でも特にひどかったのは、煮売り屋から始まって最終的には名字帯刀まで許されるようになった凄腕の店主・采女宗馬のいる有名店<登龍楼>からの営業妨害行為。采女宗馬自身が明確に何かを命じたシーンは今のところ出ていないのですが、狡猾な店主に気に入られようとする店の者が<つるや>に付け火をして燃やしてしまったり、ガラの悪い人間を店の周囲でうろつかせたり、澪ちゃんの第二の母とも言える芳さんに暴力をふるって大怪我をさせたりするのをあえて見てみぬ振りをするという確認犯的な行為を行う事によって、巧みに追い詰めようとしています(その為、最後の最後で追い詰めても理論武装や証拠不足で言い逃れしたり、下の者を足切りすることでうまく罪を逃れています)。これは実社会でもよくある事で、そういう場合に責任者はどんなに反省したそぶりを見せても「下の者が勝手にしでかした事」という言い訳を言葉の端々にさりげなく付け足す事が多々ありますが、作中で澪ちゃんが言っている通りそれはあまりに見苦しい常套句だと思います。「奉公人は主人に倣うもの。弱い者は捻じ伏せ、どんな手を使ってでも勝つ、というさもしい根性は、主人から引き継いだものでしょう。だとしたら、下の者がしでかした事の責任は、やはり主人にもあると思います」というのは澪ちゃんの言葉であり、さらに言うならば芳さんの教えでもあるのですが、常に肝に銘じたい一文です。
 今回ご紹介するエピソードは、そんな<登龍楼>からの嫌がらせの一環としてスパイ役を命じられ、<つるや>へ下足番としてもぐりこむことになってしまった身寄りのない十三歳の少女・ふきちゃんのお話。元々ふきちゃんは六歳下の弟・健坊と既に亡くなった両親の借金のかたとして<登龍楼>へ奉公に出されていたのですが、直属の上司である料理長・末松に弟を盾にとられて脅され、強引に<つるや>の新作レシピを試作段階で盗み出して末松に告げ口するよう命令され、嫌々ながらそれに従う日々が続いてしまいます。
 かくして、最初は“蓬とユキノシタの天ぷら”、その次は“三つ葉尽くし”と<つるや>の面々が心を込めて考え出した春の看板メニューは<登龍楼>が次々と先に発表し、<つるや>は二番煎じをした側だと後ろ指を差されてしまうのですが、澪ちゃんはふきちゃんの重い事情を先に知った為、何とかして自発的に盗作行為を辞める勇気を持って欲しいとある料理を作ります。それが、この“ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮”です。
 作り方は両方とも簡単で、“ほろにが蕗ご飯”は塩・日本酒・水・研いだお米を一緒に炊き上げるだけ、“蕗の葉とじゃこの炒め煮”はアク抜きをした蕗の葉とじゃこをお好みの味付けで炒め煮にするだけでもう出来上がります。実を言いますと、澪ちゃんは“ほろにが蕗ご飯”に油揚げを刻んで入れようとしていたのですが、途中で「蕗だけの旨さで味わうご飯もいい」「蕗は元々力のある野菜だから、それだけでも素晴らしくおいしい」と思いなおし、あえて蕗のみが具となっているシンプルな炊き込みご飯にしました。ちなみに、澪ちゃんはこの“ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮”をふきちゃんに食べてもらう時、「そう。ふきちゃんみたいに強い野菜よ」と、優しく静かに言い聞かせています。薄々自分がスパイだと気付いているにも関わらず、責めるどころかただひたすら自分の事を案じて温かく接してくれる澪ちゃんや<つるや>のみんなの優しさに触れるにつれ、少し前から自分の行動に限界を感じていたふきちゃんでしたが、澪ちゃんのこの言葉がきっかけで張り詰めた糸がプツリと音を立てて切れてしまい、遂にスパイをやめさせてもらおうと無我夢中で<登龍楼>へ走り出して行きます。そして、澪ちゃんも末松と決着をつけようと後を追って走り出すのですが、行き着いた先で思いがけぬ大物と出くわし、初めて対峙する事となります。この先は大変見ごたえがありますので、宜しければ是非『花散らしの雨―みをつくし料理帖』にて直にお確かめ下さると幸いです。
 近所の野菜屋さんでようやく葉っぱつきの蕗を扱うようになりましたので、これをいい機会に早速再現しようと一念奮起しました。巻末のレシピを参考に、出来る限り忠実に作ってみようと思います!

 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、蕗の下ごしらえ。蕗は流水で表面の汚れを軽く洗い流した後に葉を大雑把に切り落とし(葉は後で使用するので取っておきます)、鍋に入る長さに切り揃えて大量の塩をふりかけ、よ~く板ずりします。板ずりしていくにつれて自然にスジが取れてきますので、ちょこちょこ取り除きながら表面からアクを滲み出させていきます。
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮1
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮2
 蕗の表面が徐々に紫がかった緑色から鮮やかな緑色に変化してきたらたっぷりの熱湯でしんなりする程度に湯がき、火が通り過ぎない内に取り出したらすぐに冷水に入れて放置します。少し時間が経ったら蕗から皮を丁寧にむき、約一.五ミリ幅に切り揃えておきます。これで、蕗ご飯用の蕗は準備OKです。
 ※蕗は気を抜いているとあっという間にフニャフニャになってしまう野菜なので、小まめに茹で具合をチェックした方がいいです;。
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮3
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮4
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮5
 研いであらかじめ水に浸けておいたお米を文化鍋(又は炊飯器)へ分量分の水と一緒に入れ、そこへ日本酒、塩、先程切っておいた蕗を投入してフタをし、通常と同じどおり炊き上げます。やがてご飯が炊けたらフタを開け、ざっくり混ぜ合わせてからまたフタをして十分前後蒸らします。
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮6
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮7
 これらの作業の合間に、蕗の葉の用意。蕗の葉は蕗本体よりもずっとアクが強いので、刻んだらボウルに張った水へ何度もさらし、その後に茹でる時も最低でもお湯を二~三度かえて下茹でしてしっかりアクを取り除きます(本っ当に頑固なアクですので、しつこくアク抜きをしていく内に「すごい根性だな~」と一種の感動すら覚えてしまいました;)。やがてお湯がそこまで色づかなくなってきたら余分な水気を絞っておき、ごま油を引いたフライパンへじゃこと共に蕗の葉を加えて軽く炒めます。蕗の葉にごま油がなじんできたら、砂糖、日本酒、みりん、醤油、味噌で味付けし、汁気がなくなるまで混ぜ合わせます。
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮8
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮9
 蕗の葉に調味料が染みこんだら火を止めて小鉢に盛りつけ、程よく蒸らした蕗ご飯をお茶碗によそえば“ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮”の完成です! 
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮10
 美しい翡翠色に煮えあがった蕗の鮮やかな緑色が真っ白なご飯に映え、思わず「春だなぁ~」と呟きたくなる一品です。春の野菜に共通している濃密な緑の香りと、日本酒の優雅な香りがいい具合に調和しており、湯気を嗅いでいるだけでうっとりします。蕗の葉の濃い緑色と味噌の香ばしい香りも食欲をそそりますし、これは味に期待が持てそうです。
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮11
 それでは、出来立てほやほやの内にいざ実食!いただきまーすっ!
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮14

 さて、味はと言いますと…蕗を二重に堪能出来て美味!春の訪れを実感させられる香り高い風味で、口の中でいっぱいになります!
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮12
 胸をすくような清々しい、けれども野性味のある香気が噛むごとに鼻を抜けていき、まさにこの季節でしか味わえない贅沢な炊き込みご飯って感じです。蕗はすぐにホロリと柔らかく崩れる部分と、シャグシャグシャキッとしたやわいようで実は小気味良い歯触りの部分という二種類の食感が楽しめるのがよく、それがやや硬めにふっくら炊き上がったご飯に殊更合っていました。
 澪ちゃんが言っていた通り、他の具を入れずとも蕗から感じ取れる春の息吹きとも言える旨さだけで十分満足です。日本酒が効いているせいか、場合によってはえぐくなってしまう蕗の匂いの悪い所は最小限に抑えられていましたし、ほのかに塩味がついたシンプルな味付けのご飯は蕗ならではの膨らみのある味や瑞々しさを際立たせる事に成功していました。
ほろにが蕗ご飯&蕗の葉とじゃこの炒め煮13
 この蕗ご飯と素晴らしく相性がいいのが、蕗の葉とじゃこの炒め煮。茹でて炒めて煮たというのにまだザクザクした歯応えが残っているのが驚きで、じゃこから出たお出汁を吸って深みが増しているのに感心しました。ゴマ油のこっくりした香ばしいコクと味噌の奥深い風味が蕗の葉の強烈な癖やほろ苦さをしっかり受け止めて逆に旨味へと転化させており、後を引く甘辛さが病み付きになります。
 品がよく淡泊な味わいの為パンチに欠ける蕗ご飯も、より野趣溢れる力強い蕗の葉の風味が組み合わさる事で蕗本来の滋味がさらに引き立つという相乗効果が発揮されており、蕗ご飯を食べるには欠かせない副菜だと思いました。じゃこのグニグニした歯応えがいいアクセントになっている、見た目よりもはるかにこってりした立派なおかずです。

 まだまだ肌寒く、春が近づいたかと思えばまた冬の気候に逆戻りという毎日ですが、こういう春だからこそ楽しめるお野菜を食べると、もう春は目の前に迫っているのだと実感します。小さい頃にはこういうほろ苦い春の味のよさが全く分かりませんでしたが、最近ではすっかり分かるようになってきました。今度は、日本酒を軽く一杯やりながら食べたいな~としみじみした再現でした(^^)。

●出典)『花散らしの雨―みをつくし料理帖』 高田郁/角川春樹事務所
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2012.03.13 Tue 15:08  |  おいしそうです

蕗は、フキノトウも葉も茎も大好きな野菜です!

葉とじゃこの炒め煮は私にとって春のメシ泥棒…。蕗味噌並にご飯を食べる箸が止まりません。



この蕗の葉のアク抜き然り、日本料理では本当に水をたくさん使って下処理をしたり調理をしたりしますね。

水の国日本ならではだと思います。水が貴重な国ではこんなことできませんよね。

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Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
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