『今朝の春―みをつくし料理帖』の“里の白雪”を再現!

 昨夜、地元情報誌をめくってみると「お野菜たっぷりのハーフお好み焼き&コーンスープ&シーザーサラダのランチ!食後はコーヒーにケーキもつけちゃいます!可愛い小物を眺めながら女子会はいかがですか?(\880)」という驚きの組み合わせのランチを売りにしているカジュアル系のお店があり、びっくり仰天しました;。
 個人的に、お好み焼きは寂れた駅前にある擦り切れた漫画雑誌が何十冊も置かれているような年季の入ったお店で食べるワンコインの物ばかり食べている為、この発想は全くありませんでした;。
 家で作る時も「今日はオタフクの野菜と果実をつめこんだお好みソースが手に入ったからワンランク上の味が出せるぞー!」(←おいしいのに、置いている店舗が少なく寂しい限りです)とささやかな幸せを噛み締めるタイプなので、当分はご縁がなさそうですorz。
 どうも、外で食べるお好み焼きでお気に入りの具は海老&イカ、もしくはモチ&チーズな管理人・あんこです。
※注意:今回はいつもにも増してネタバレがひどい回です。未読の方は、あらすじ部分を飛ばすことをお勧めいたします。


 今回作ってみる再現料理は、『今朝の春―みをつくし料理帖』にて澪ちゃんが離れ離れになった無二の友・野江ちゃんを守る為に作った“里の白雪”です!
今朝の春
 澪ちゃんが小松原様への思いを胸に秘めようと決意してしばらく経ったある日(詳しくはこちら)、<つるや>によく通って来てくれている毒舌で皮肉屋だけれども鋭い舌を持つ売れっ子戯作者・清右衛門先生がとんでもない作品を書こうとして、澪ちゃんを大いに慌てさせます。
 その作品とは、幼き日の澪ちゃんと大の仲良しだった幼なじみで、八歳の時に水害で澪ちゃんと離れ離れとなってご家族とも死に別れた後、騙されて吉原の<翁屋>へ売り飛ばされ‘あさひ太夫’として数奇な人生を生きる事になった友達・野江ちゃんを主人公にした女一代記のようなもの。
 実を言いますと、澪ちゃんは野絵ちゃんが水害にあって天涯孤独の身の上になってからの人生はつい最近まで知らなかったのですが、‘あさひ太夫’の取材をしてその実像に迫ろうとする清右衛門先生の口から少しずつ事実を知る事になります。

 廓に売られたとは言っても、有名な易者から≪旭日昇天≫という最大の吉相だと占われた事が功を奏して、最初は禿(かむろ)として一通りの英才教育を受けた事。
 その頃から、この上ない美しさと聡明とで名だたる粋人を虜にして名を上げていった事。
 いよいよ初見店に出る時、≪旭日昇天≫の強運にあやかりたいと思った三人の大商人がそれぞれ身請け銭四千両、合計して一万ニ千両という大金を<翁屋>に預ける代わりに三人だけの相手をする遊女として‘あさひ太夫’を買い上げ、年季があけた時には三人の内どちらの傍がいいのか‘あさひ太夫’に決めてもらうという遊女にしては異例の高待遇を受けているとの事…。

 通常でしたら、吉原一の吉運を持っていると言われてもおかしくない半生に聞こえるかもしれませんが、かつて野絵ちゃんが上方でも有数の商店の末娘で将来は大店の若旦那の御寮さんになっていてもおかしくない身の上である事を知っていた澪ちゃんは、それらの輝かしい経歴を知っても何ともいえない複雑で悲しい心境になります。
 しかし、清右衛門先生が「運命に翻弄される、美貌の太夫」として一本の戯作を書き上げ、世の中に広めようとしているのを知って嘆いている場合ではないと思い、何とかしてその戯作を書くのをやめさせようと考えます。

 その時、少し前に蕪が大好物な清右衛門から「旨い蕪料理を考えたら、一つ褒美をやる」と口約束を交わされていたのを思い出した澪ちゃんが決死の思いで試作に試作を重ね、半ば祈るような気持ちで完成させたのがこの“里の白雪”。
 作り方は古典的料理・“かぶら蒸し”とほぼ同じで、すりおろして卵白などを混ぜ合わせた蕪を鯛(もしくはヒラメ)の上にかけて蒸し、仕上げに出汁と葛で作った熱々のあんをかけてわさびを乗せたら出来上がりです。
 澪ちゃん曰く、蕪料理としての完成度を追求しつつ「おろした蕪の下に、ヒラメが隠れている。里に住む太夫をいたずらに表に出さないで欲しい、との思いをこめた」一品との事で、そのせいか当初は“隠れ里”という名前でした(ただ、少々地味な名前だったのが清右衛門先生の気に触ったらしく、半ば強引に“里の白雪”という洒落た名前へ変更されてます;。なんと言いますか、名づけにはやはり性格が出るんだな~と妙に感心した一幕でした^^;)。

 その後、予想以上に美味で見た目にも風情のある“里の白雪”を心底気に入った清右衛門先生は約束を守ると言ってくれた為、澪ちゃんは「先生の戯作を下さい。いえ、書くのをやめていただくだけでもいいのです」と必死に直談判します。
 さすがにこれには清右衛門先生も迷ったようですが、澪ちゃんと‘あさひ太夫’こと野絵ちゃんが水害で生き別れた友達同士だと知り、最終的にはきっぱり執筆をやめてくれました(正直、かかったお金も労力も並大抵ではない作品を公表しないのは身を切るように辛かったと思いますが;、ちゃんと守ったあたりが律儀な先生らしいとほんわかした気持ちになりました)。
 そしてそれだけではなく、清右衛門先生は今から四年前、死んだ亭主の約束を守ってその女房が遊女の杣川という女性を身請けしたという吉原ではちょっとした事件だったお話を引き合いに出し、澪ちゃんへ次のように言い聞かせます。

―「あさひ太夫を、お前が身請けしてやれ」
―「どのお大尽に身請けされるよりも、お前に身請けされることが、太夫にとっての一番の吉祥」
―「お前が天満一兆庵の再建を果たし、料理で人を呼ぶ事が出来れば、叶わぬ夢ではあるまい」


 この一節を初めて読んだ時、一陣の風が吹いて目の前の暗雲が瞬く間に明るく切り開かれていったような清々しい感動を覚えたのを、当管理人は未だに忘れることが出来ません。
 一見すれば絶望的だった状況が、発想の逆転によって全くの幻ではなくなったこの瞬間は、今思い出しても胸が震えます。
 大げさかもしれませんが、この話を境に今では全く異なる道にいて互いに時が止まったようになっていた澪ちゃんと野江ちゃんの時計の針が、場所こそ遠く離れてこそすれまた再び同じ時を刻むようになったような気がしてなりませんでした。
 そして、さらにこの夢が叶うという事は、すなわちもう一つの最大の夢である「天満一兆庵の復興」を成し遂げる事ともイコールになる為、まさに澪ちゃんにとっては一石二鳥な妙案。
 かつて、不運としかいいようのない不幸の連続で手塩にかけて育ててきた店を失い自身の命を縮め、「無念や、無念でならん」と最期まで天満一兆庵の事を気にかけてこの世を去った親代わりの主・嘉兵衛さんの遺志を引き継ぐ事も、恐ろしい勢いで成長していっている澪ちゃんの腕次第では、もはや荒唐無稽な夢ではなくなっているのです。
 考えれば考えるほど遠い道のりですし、この後も澪ちゃんは様々な苦難を迎えていますが、雪が静かに降り続くこの日、いつもは皮肉屋で意地悪ばかり言う清右衛門先生が不器用ながらも珍しく澪ちゃんやその周囲の人達を思いやって示した未来絵図を、澪ちゃんには是非現実の物としてもらいたいと強く感じたエピソードでした。


 最近、温かくなったかと思えばすぐに雪が降って凍えるほど寒くなる日が続いている為、滋養をつけつつ体を温める為にも早速再現してみようと思います。


 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、材料の下準備。鯛(又はヒラメ)はサクのサイズに合わせてやや大ぶりな三~四等分に切り分け、塩を全体に薄く振って少し放置してます。態の表面にうっすら水分が滲み出してきたら熱湯でさっと湯引きし、余計な水気をしっかり拭き取っておきます。
 ※作中で使用されているのはヒラメでしたが、清右衛門先生が「何故、鯛にしない」と起こったり、澪ちゃん自身その非を認めていた為、鯛を使うことにしました。
里の白雪1
里の白雪2
 一方、カブは皮をむいて目の細かい卸し金ですりおろし、ザルにあけて水分をきります(なお、カブの皮は刻み昆布・輪切りの赤唐辛子・塩を合わせて揉んでしばらく放置しておくと、美味しい浅漬けに変身します)。その後、カブは優しく軽く水気を絞っておき、そこへ清潔な布巾で漉しておいた卵白と塩を加えてよ~くかき混ぜておきます。
里の白雪3
里の白雪4
里の白雪5
 次は、蒸し作業。底が深めの器に鯛を数切れ置き、その上から先程のすりおろしたカブを小さい山を作るかの如くこんもりと盛り付け、強火にかけて湯気がシューシュー出ている蒸し器で約十五分前後蒸します(ただ、蒸し器によって時間が変わってきますし、蒸しすぎてしまうとガビガビに固まった卵白が浮いて興ざめな出来になってしまいますので、十分経つか経たないかの頃に何度か覗いて見た方がいいかもしれません)。
里の白雪6
里の白雪7
里の白雪8
 その間、カツオ節と昆布でやや濃い目にひいておいた出汁を入れた小鍋を火にかけ、酒、みりん、塩、醤油を入れて味付けします。やがて煮立ってきたら火を止め、水で溶いておいた葛粉を円を描くように士ながら投入して混ぜ、滑らかなとろみがついたのを確認したら再度火にかけて沸騰させます。これで、上にかける特製あんの出来上がりです。
里の白雪9
里の白雪10
 カブと鯛がいい頃合に蒸しあがったら取り出し、その上から熱々のあんをたっぷりかけて最期におろしわさびをちょんと飾れば“里の白雪”の完成です!
里の白雪11
 器を手に取ると驚くほど熱く、冷えた手がどんどん温まっていくのが分かります。作中に書かれていた通り、あんによって湯気が封じ込められている為見た目はそこまで厚そうに見えないのですが、顔を寄せると蒸した物特有の暑さ空気越しに伝わり、寒い時期には何よりのご馳走だと感じました。実はかぶら蒸しを食べるのは生まれて初めてなので、一体どんな味がするのか楽しみです。
里の白雪12
里の白雪13
 それでは、冷めないうちにお匙ですくっていざ実食!いただきます!
里の白雪14

 さて、味の感想ですが…どこまでも優しく儚げな旨さが強く印象に残る一品。あっという間に舌に溶けていく様は、まるで本当の淡雪のようです。
 食べた途端、雪の如くふわりはらりとほどけて口の中でホロホロと溶け去っていく極上の舌触りを持つカブに、火傷しそうな程熱々でとろりとしたあんが絡んで混然一体となっていくのが恍惚物で、思わずとろみの強いカブの和風ポタージュを飲んでいるような不思議な感覚に陥りました。カブをおろした物は大根おろしと同じくらいフワフワ感があるのに、大根おろしよりもずっと身に旨みと存在感が残っているので立派なメインの具になりえる食材だと思います。何より、他の野菜にはないカブならではの上品かつ透明感のある深い甘さが最大限に引き出されているのが魅力的で(野菜には珍しいくっきりした甘味です)、寒い季節にはたまらないカブ料理でした。また、卵白が入っているせいかより柔らかくふっくらと蒸し上がっているのがよかったです。
 中に埋もれているタイも、カブの身と水分とで半ば蒸し煮になったような味わいになっており、しっとりジューシーな口当たりが美味でした。白身らしい品のいい旨味と、さすがタイともいうべき貫禄ある脂分がカブの淡い味と相性ぴったりな上にコクを付け足しており、それによってボリューム感を持たせているのに感心です。途中、カブの甘みがやや効きすぎてきた時にはわさびを溶き崩してから口に運ぶと、ツンと舌を刺す辛みと鮮やかな香りが味をちょうどよく引き締めてくれる為、非常にバランスがいい蒸し物だと感じました。

 見た目の美しさもさることながら、味わいの方も寒い日にもってこいな非常に温かな美味しさですので、ちょっと贅沢な晩酌用の肴として作るのは勿論、来客時におもてなし用としてお出ししてもよさそうです。何気にわさびがいい仕事をするので、気持ち多めに乗せることをお勧めいたします。

○追記:tomy様、わざわざ事後報告をして頂き誠にありがとうございます。お申し出の件ですが、このような駄ブログでよろしければ是非お役立てください。今後も何卒宜しくお願いいたします。

●出典)『今朝の春―みをつくし料理帖』 高田郁/角川春樹事務所
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2012.03.02 Fri 07:49  |  

あんこさん、はじめまして。こんにちは。
日頃とてもとても楽しんで拝読しております。
拝読歴は長いのですが、今回は初めてのご挨拶と思いまして。

あんこさんのブログで「みをつくし料理帖」を知りまして、
今回の記事を拝読してうゎーんと堪らなくなってしまって、
たった今ポチポチポチ…っと大人買いをしてきましたっ。
おもしろくて楽しいだけではなく、こういった小説や漫画等の作品を
教えていただけるのもまた嬉しいです。
本当にいつもありがとう。
これからも更新を楽しみにしてます。

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あんこ

Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
 …『テルマエ・ロマエ』
 …『土曜日ランチ!』
 …『BAR・レモンハート』
 …『百姓貴族』
 …『ぶたぶた』シリーズ
 …『ベーグル食べない?~幸せカフェごはん~』
 …『飯盛り侍』
 …『夢色パティシエール』


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