『けずり武士』の“蜆肉飯と味噌漬け豆腐”を再現!

 近頃、納豆味噌を納豆に入れて混ぜた物をご飯に乗せたり、自家製のネギ味噌を冷奴かけたり、塩麹で漬物や漬け焼きにしたりする事が我が家で流行っています。
 特に、母の塩麹へのはまり具合はかなりの物で、一日に必ず一食には塩麹を使った料理が出てきている為「はまっているな~」と少し苦笑しています(思えば、これと決めた事をしつこいくらい繰り返す性格は母に似たのかもしれません)。
 発酵食品はちょっと加えるだけで料理に深みを出してくれるので、重宝しています。
 どうも、豆腐の塩麹漬けは豆腐の味噌漬けとどう違った味わいに仕上がるのか興味津々になっている当ブログの管理人・あんこです。


 本日再現する漫画料理は、『けずり武士』にて主人公・荒場城一膳さんがお気に入りの飯屋<双葉屋>で食べたある日の日替わり定食に組み込まれていた“蜆肉飯と味噌漬け豆腐”です!
蜆肉飯と味噌漬け豆腐図
 漫画『けずり武士』とは、身分がかなり高そうだと推察できる謎の人物・<御大様>の取次役であるお調子者で勝気な女性・由麻さんにその確かな剣の腕を見込まれた貧乏侍の主人公・荒場城一膳さんが、役人や法が裁けぬ悪人を裏で始末する闇稼業を請け負って成敗しつつ、江戸ならではの美味しい料理を食べて心を癒す日々を描いた、お江戸グルメ&仕置き人風剣客漫画です。
 汚職まみれの役人・タチの悪い女衒・毒を売り捌く偽医者など、暴力や法の抜け目を利用して甘い汁を吸う人間がはびこるのを防ぐのが、荒場城さん・由麻さん・その忠実な護衛である盛吉さんのお仕事。
 斬り合い場面が多いのでシリアスなシーンも多いのですが、奔放で口が達者な由麻さんと、最初は威勢がいいものの段々由麻さんのペースに巻き込まれていく荒場城さんの歯切れがいいやり取りや(「荒場城の旦那~!」「働け!アラバキ!」と呼びかける由麻さんの姿は、なかなかに愛らしいです^^)、テンポのいいギャグも所々混じっている為、結構分厚い内容ながらもするする読めてしまう隠れた名作です。
 正直、初めて表紙を見た時は「何だかネタっぽい題名だな~;」と思いましたが、我が身を削るようにしながらもほんの一握りの誰かを救う為に生きる荒場城さんと、江戸の地で華やかに花開いた食文化を象徴する削り節の双方を連想させる『けずり武士』という題名をつけた湯浅ヒトシ先生の命名の巧みさに、作品を読了した後には舌を巻きました。
 一見単純そうに見え、その実深い意味合いを持つ所は題名だけでなくまさにこの作品のストーリーその物ですので、派手さはなくとも読めば読むほど味が出てくる作品を好む方には是非お勧めしたいです。
浪人・一膳さん、謎のお転婆美女・由麻さん、無口な怪力・盛吉さん
 中でも秀逸なのが、作中の至る所で登場するお料理と、荒場城さんの豪快な食事描写!
 赤紫蘇まぶしの握り飯、鮎の焼き味噌つけと南蛮漬け、江戸前握り寿司、炒りだし卵、牡丹鍋などがとにかく美味そうで、さらにそれらをまるで子どもみたいに無邪気で屈託なく大口を開けて貪る荒場城さんの食べっぷりが見事な為、読んでいるとこちらまでつられてついゴクリと喉が鳴ってしまいます(^^;)。
 この作品は、所々で江戸の食文化を詳しく説明する柱文がいくつかあり、読み勧める内に自然と江戸時代にどのようなものが食べられていたのか、何が人気だったのかという事が学べて楽しいのも大きな魅力の一つです。
さらに蜆肉飯を飲み込み、がっつく一膳さんの姿が秀逸一膳さん、大口を開けて蜆肉飯をバクリ!
 けれども、だからと言って江戸グルメ漫画と一刀両断してしまうにはあまりに惜しい程色んな要素の詰まった作品で、例えばなかなか迫力のある斬り合いみシーンや時折説明される様々な流派の剣術を重視して見れば「剣客漫画」、単なる町娘とは思えない素性不明の美女・由麻さんや親友・天本祐之助さんとの交流を注意深く見れば「江戸を舞台とした人間ドラマ」など、見所満載です。
 なお、荒場城さんは人を斬り殺した時、それが生前どのような人物だったとしても「心が削がれる」という表現をします。
 作中を見る限り、「削がれる」体験をすると荒場城さんは絶対に何かを食べており、その都度心が洗われて「満たされた」と言っては殺人後の思いつめた表情が一転、元の屋根裏バエの旦那(←蝿のように素早い事から、岡場所の女性達より命名されていました;)へと戻っていきます。
 その為、荒場城さんがおいしい物を食べる事に人一倍執着するのは生来の食いしん坊がなせる業なのはもちろんの事、それを除いたとしても誰かを殺した後に「削がれたら食わねば」とひとりごちるのは、埋めがたい寂寥感を無意識の内に埋めようと心が欲してならないからかもしれません。
 しかし、状況が変わっていたら自分だったかもしれない誰かを犠牲にしながらも、胃が空になるほどの猛烈な吐き気に襲われても、自己嫌悪のあまり悪夢見る日々を続いたとしても、荒場城さんは「これが己の選んだ役割であり、そこから派生する結果もまた、己で受け止めるしかない」と重い独白をし、逃げずに全てを受け止めます。
 この辺を読むと、道を外す人間を成敗するほどの強さは持ってはいるものの、それを「自業自得」と一言で切り捨てるほど冷酷になりきれない人間臭い弱さを持っているのが垣間見え、そのもろさが危うくも魅力的な主人公だと思います。
グルメ漫画と断言出来ないほど、シリアスで印象的なシーン満載です
 今回再現するのは、荒場城さんが江戸の地へ引っ越してきて以来に足しげく通っている飯屋<双葉屋>のメシ小町として評判の看板娘・お婉さんが、有り金がたったの三文(現在の貨幣価値に換算すると、何と六十円!)しかなくお腹をすかせている荒場城さんに「うちは通いのお客様には掛売り(ツケ)もしておりますのよ、ご心配なさらず」「今年は大豆が豊作だそうで、このような献立が安く上がるのです」と言って出した日替わり定食の内の二品、“蜆肉飯と味噌漬け豆腐”!
 二つとも作り方は簡単で、蜆肉飯は酒で煮出した蜆の煮汁で炊いたご飯と醤油等で味付けした蜆を混ぜ合わせたら出来上がり、味噌漬け豆腐は水気をきって和紙に包んだ豆腐を味噌に一晩漬け込んだら準備完了との事でした。
 味噌漬け豆腐はともかく、蜆肉飯は最初に全部合わせて炊く方式のレシピが多かった為、ご飯と具が別扱いのレシピは大変珍しかったのを覚えています。
 作中の説明によると、大豆は高タンパクでありながらコレステロールを全く含まず食物繊維、ミネラル、ビタミン類など豊富な栄養素まで併せ持つというまさに「ミラクル食品」だそうで、そのせいかヨーロッパでは「畑の肉」、アメリカでは「大地の黄金」という異名を持つのだとか。
 そう考えると、味噌・醤油・豆腐・おから・湯葉・納豆・きな粉・油揚げなどといった古来からの大豆食品が昔から現在まですっかり定着している日本は、かなり恵まれた国なのでは…と思わず唸ってしまいました。
双葉屋の看板娘・お婉さん味噌漬けする際、豆腐は和紙に包むのがお江戸風
 味噌も豆腐も蜆も好物な為、始めてみた時から是非作ってみたいと熱望していました。近所のお店でぷっくり肥えたいい蜆が見つかったことですし、早速再現してみようと思います。


 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、味噌漬け豆腐作り。豆腐をキッチンペーパーやふきんなどで包んで重しをし、水分がしっかり抜けたら和紙でぴっちり隙間なく包み込み、味噌の中で焼く一晩漬け込みます(より濃厚な味がご希望の場合は、二~三日がベストです)。
蜆肉飯と味噌漬け豆腐1
蜆肉飯と味噌漬け豆腐2
蜆肉飯と味噌漬け豆腐3
 時間が経過し、豆腐に味噌がすっかり漬かったのを確認したら取り出して和紙を取り除き、食べやすい大きさに切り分けます。これで、味噌漬け豆腐は出来上がりです!
 豆腐は充分漬かると、何ともいえない飴色がかった光沢が表面についている為、すぐに見分けがつきます。
 ※味噌はお好きなものを使用してOKです。今回、当管理人は合わせ味噌を使いました。
蜆肉飯と味噌漬け豆腐4
蜆肉飯と味噌漬け豆腐5
蜆肉飯と味噌漬け豆腐6
 次は、蜆肉飯作り。水に三~五時間程度浸けて砂抜きを行なった蜆を、殻をこすりつけ合わせるようにしながらよく洗い、日本酒と共にお鍋へ入れて沸騰させて火を通します。
 その際、フタをして一気に強火にすると蜆はすぐに口を開けるので楽ですが、あんまり火を通しすぎると蜆は情けないくらい小さくガチッと硬くなるため、注意していい頃合の時に火からおろします。
蜆肉飯と味噌漬け豆腐7
蜆肉飯と味噌漬け豆腐8
蜆肉飯と味噌漬け豆腐9
 蜆の身と煮汁の二つに食材を分け、蜆の身は日本酒と醤油で程よく味付けし、炒ったカツオ節を投入して絡めて合わせます。一方、煮汁は冷ましておきます。
蜆肉飯と味噌漬け豆腐10
蜆肉飯と味噌漬け豆腐11
蜆肉飯と味噌漬け豆腐12
 先程冷ました煮汁とお水とお米とでご飯を炊き上げて軽く混ぜ、仕上げにさっきの醤油味の蜆を汁ごと投入してざっくり切るようにして混ぜ合わせます。
 この時混ぜたらすぐに食べるのではなく、フタをして十分くらい放置して蒸らすと米粒に蜆風味の醤油がじんわり広がるので、必ず寝かせてから食卓へ運ぶよう気をつけます。
蜆肉飯と味噌漬け豆腐13
蜆肉飯と味噌漬け豆腐14
蜆肉飯と味噌漬け豆腐15
 各料理をそれぞれの器へ盛りつけ、他にも煮豆、味噌汁、沢庵漬けも用意してお皿へ飾り付ければ“蜆肉飯と味噌漬け豆腐”の完成です!
蜆肉飯と味噌漬け豆腐16
 大豆製品ばかりなので、一見華がなくて地味ですが、その分栄養たっぷりそうで頼もしいイメージです。
 味噌漬け豆腐からは既に味噌の香り、蜆肉飯からは磯の香りが漂ってきており、匂いでまず胃袋を鷲づかみにされる感じでした。
 豆腐を味噌で漬けるのは人生初だったので、一体どんな風に漬かっているのか非常に楽しみです。
蜆肉飯と味噌漬け豆腐20
蜆肉飯と味噌漬け豆腐18
 それでは、出来立てほやほやの内にいざ実食!
 いただきまーすっ!
蜆肉飯と味噌漬け豆腐17


 一番目は、“蜆肉飯”。いっただっきま~す。
 さて、味の感想ですが…深いとしか言いようのない、滋養溢れる美味しさ。食べれば食べる程、静かにじんわりと舌へ響いていきます。
蜆肉飯と味噌漬け豆腐21

 ご飯と一緒に炊き込まず後から混ぜ込んだせいか、しじみの身に味がしっかりと染みつつもふっくらとした弾力になっており、数回噛むだけで楽に噛み切れてしまうような柔らかい出来栄えです。
 カツオ節から直に出た濃厚でキレのいい辛口出汁をたっぷり溶け込ませ、贅沢に仕上がった江戸風濃口醤油味がしじみのあっさりかつ奥深い旨味とぴったりで、シンプルながらも飽きのこない海鮮ご飯でした。
 「甘味を抜いてさっと煮、優しい口当たりに仕立てたしじみの佃煮風」と例えたくなるしじみと、出汁が抜けながらも尚強い旨味成分が残っているカツオ節の相性が抜群で、正直ここまでしじみとカツオ節が合うとは意外です。
 単品だと控え目すぎて目立てないしじみですが、カツオ節の強い風味によって味の輪郭がくっきりと浮かび上がる感じで、そのせいかメリハリのついた美味さが堪能出来ました。
 なまじ、最初から醤油を入れて炊かなかったおかげでしじみの淡い、まるで穏やかなさざ波のような出汁が押し殺される事なくご飯一粒一粒に活きており、そのせいか貝類ならではの自然な甘さを味わいつつ醤油の濃い味を楽しめます。
 お酒の香りがわずかな臭みを消すと同時に、さらに旨さを高めているのもよかったです。


 二番目は、“味噌漬け豆腐”。いただきます!
 さて、味はと言いますと…豆腐だと思って口にすると、いい意味で不意打ちを受ける熟成された味わい。こってりしているのにさっぱりして美味です!
蜆肉飯と味噌漬け豆腐19

 クリームチーズにそっくりなねっとりなめらかな口溶けと、モッツァレラチーズみたいなムチムチした歯応え、そしてまるでカマンベールチーズのような濃厚なコクと強い塩気が特徴的な味わいで、それでいて全くしつこくないサラリとした後口が印象に残ります。
 元が大豆なのでクリーミーなチーズに似ている味でありつつも、注意深く味わうと徐々に植物由来の自然な甘味が溢れだしてくる不思議な美味しさでした。 味噌のふくいくとした風味が効いているせいか様々な旨さが交差している感じで、こっくりとろけていく奥行きのある味わいな為一向に飽きがきません。
 味噌の単に塩辛いだけではない複雑な塩味と、豆腐のまろやかな油分が組み合わさるとこんなにもチーズっぽい深いコクとまったりした酸味が生まれるのかと、ちょっと感動しました。
 重厚感の不足や風味の差異があるのでチーズその物とまでは言えませんが、ハード系チーズに匹敵する旨味がありながら特有の癖や匂いがない分、食べやすさでは勝っていると思います。
 今回は麦味噌ベースの合わせ味噌を使ったせいかオーソドックスに甘辛い後口でしたが、使う味噌を色々変えてみるとまた違った味わいになって多種多様な出来栄えが期待出来そうだと感じました(一度白味噌で作った事がありますが、それだと甘さがより際立っていました)。


 見事なまでに大豆尽くしの献立でしたが、満足度の高くて健康にもよさそうなところが気に入りました。
 大豆の煮物は小さい頃苦手でしたが、今食べると大豆ならではの素朴な味わいがしみじみおいしく、懐かしい気分にさせられます。
 蜆肉飯の王道的な旨さは勿論、噂には聞いていた豆腐の味噌漬けがまさかここまで美味だったとは、嬉しい誤算でした(^^)。

●出典)『けずり武士』 湯浅ヒトシ/双葉社
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

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プロフィール

Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
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 応援して下さる方々に少しでも楽しんでご利用して頂けるよう、沢山の作品に触れるちょっとしたきっかけになれるよう、これまで以上に心掛けていきます。
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