『おいしい銀座』の“卵のグラタン”を再現!

 先日、今更ながら徳川家康の辞世の句を知ったのですが、それが「うれしやと 再びさめて ひとねむり 浮世の夢は 暁の空」という、清々しい句だったのに胸をつかれました。
 豊臣秀吉の辞世の句が「つゆと落ち つゆと消へにし 我が身かな 浪速のことも 夢のまた夢」と、天下を統一したにしてはあまりに悲しい世を儚む句だったのと対照的で、まさに二人の人生の違いが如実に現れています。
 良くも悪くも、やれるだけの事をやり尽くした、とここまで穏やかに世を去った有名人は、そういないと思います。

 どうも、織田信孝の「昔より 主を討つ身の 野間なれば 報いを待てや 羽柴筑前」という訳文なしでも意味が伝わる生々しい辞世の句に震え上がった管理人・あんこです。


 今回再現する漫画料理は、『おいしい銀座』にて主人公・斐馬真理さんが出店をお願いする時に作った“卵のグラタン”です!
卵のグラタン図
 真理さんがカドヤに入社して数ヶ月経った頃、地下食品売り場の全面改装が始まります。
 契約切れや業績不振でカドヤから撤退するお店がある一方、カドヤに見込まれて新しく出店する有名店も数多くあり、おかげで真理さんは「社員割引で買えるかも…。もしかしたら、余ったのをタダでもらえたりして(´Д`*)」と完成前から大はしゃぎします。
 当管理人自身、大学時代にデパートでバイトした事があるのですが、閉店時間間近になると他店から「○割引しますので、これ買いませんか?」と売りに来たお菓子や惣菜をワクワクしながら買ったりと確かに役得な事も多かったので、真理さんの気持ちは分かる気がします;。

 この時、改装後の目玉として「フレンチの貴公子」と女性客から絶大な人気を誇るイケメンシェフ・赤城和彦さんのお店<ルージュ>が出店するはずだったのですが、開店四日前になっていきなり「出店のお話お断りします」と爆弾発言をした為、現場は大混乱!
 何でも、「M百貨店が倍の支度金を支払うといっているので、そちらの方でお店を出します」「M百貨店とカドヤでは格が違います。榎木田さんいつも言ってましたよね、自分を安売りするなと」というのが理由だったようですが、ギリギリまで二股をかけられた挙句急に後ろ足で砂をかけられるような真似をされたゼネラルマネージャーの榎木田さんは、怒りを通り越して呆然(ついでに言いますと、榎木田さんは赤城さんが田舎のレストランにいた時才能を見出して東京へ呼び寄せ、青山の一等地にフレンチレストランを開くのにも手助けした恩人。それなのにここぞというところで裏切るとは、まるで焼肉で丹精込めて育てた上カルビを人に食われる感じに近かった事でしょう)。
 その上、あろう事かカドヤ内でプレオープンまでしていた<ルージュ>の店内で、M百貨店の担当者を呼んで出店の打ち合わせをするという暴挙にまで出た為、たまたまその場にいた真理さんは「何がフレンチの貴公子よ。義理も人情もない、正体はただの金の亡者…。あなたって、最低よ!」と赤城さんを思いっきり平手打ちし、<ルージュ>以上に業界の話題になるようなレストランを急遽探す事にします。
改装オープンの目玉店がいきなり抜け、カドヤも榎田さんも大ピンチです
 しかし、<ルージュ>以上に名の売れたレストランは全て別のデパ地下に出店しており、かと言って同列のお店はいまいちインパクトに欠けてしまうという現実に直面し、真理さんは悩みます。
 が、偶然同じデパートの女性社員達が、アジアで唯一の三ツ星シェフ・国見青二さんが最近フランスから帰ってきて開いたお店<ペイ・ナタール>について「<ルージュ>とは格が違う名店!」と盛り上がっているのを聞き、真理さんはダメ元で出店願いをしに行く事にします(←実在の人物に例えるなら、<ペイ・ナタール>=落○務氏、<ルージュ>=川越○也氏という所でしょうか?)。

 当初はアポを取ってから行こうとしましたがまともに取り次いでもらえなかった為、直接交渉をするしかないと考えた真理さんは、お客として一旦<ペイ・ナタール>へ入るのですが、<ルージュ>の油控えめで見掛け倒しなフレンチと違い、素材一つ一つの味が分かる懐石料理のような美しいフレンチを食べ改めて「ここしかない!」という思いを強めます。
 そして、こっそり店内から厨房の入り口へ進入しようとした真理さんはギャルソン達に見つかり揉めるのですが(警察へ通報一歩手前だったと思うので、かなり無茶するな~とハラハラしました;)、幸運にもその騒ぎで国見シェフの目に留まる事に成功し、出店のお願いをします。
 すると、国見シェフは意外にもすぐ断ろうとはせず、何故か「フランス料理にある、卵のグラタンを作ってもらおうか」と言い出し、一応昔お母さんに習った事のある真理さんは半ば青ざめながらも「つ…作ります!」と宣言して厨房に入ります。
最後の望みをかけ、日本人で唯一の三ツ星シェフのお店へ突撃します!
 その際、真理さんが手を震わせながらも「大丈夫、大丈夫。お母さんと何度も作ったんだから…」と自らを励ましながら作ったのが、“卵のグラタン”!
 作り方はそこそこ手が込んでおり、バター・玉ねぎ・小麦粉・牛乳・ナツメグ・ローリエ等でこしらえたベシャメルソースへ、さらに卵黄とチーズを加えて作ったモルネーソースを、生卵と一緒にグラタン皿に入れて溶かしバターをかけてオーブンでこんがり焼いたら出来上がりです。

 ギャルソン達は最初「グラタンがフランス料理~?」と半信半疑の様子でしたが、現場のシェフたちが言うには「グラタンには生の食材から作るル・グラタン・コンプレ、あらかじめ火を通しておくル・グラタン・ラピッド、マカロニなどの麺類を入れて作るル・グラタン・レジェがあるが、中でもル・グラタン・コンプレは最も難しい調理法だ」「メインの食材を生からグラタン皿の中で加熱し、同時にソースを煮詰めるので…あらかじめ、その煮詰まり具合を計算しておかなければならないんだ。その上、表面にはグラタンらしいパリッとした殻を作らなければならない」との事で、それらの行程を慣れない環境の中、手早くこなす真理さんを感心しながら眺めていました。
 実を言いますと、真理さんの実家は元・帝都ホテルのフレンチシェフだったお父さんが開いた洋食レストランで、お父さんがある不幸な事故が原因で亡くなって以来やむなく閉店したものの、お父さんの手伝いをしていたお母さんによって真理さんにその味が受け継がれたようで、その中のひとつがこの“卵のグラタン”だったそうです。
 後に、そのお母さんも就職してまもなく他界した真理さんにとって、“卵のグラタン”のレシピはまさに最後に残った家族の形見なのかもしれません事実、グラタンは『おいしい銀座』において、小説『流星の絆』におけるハヤシライス並に重要なキーパーソンとなります)。
たかがグラタン、されどグラタン。ル・グラタン・コンプレは、フランスでも難しいと有名な調理法
 その後、皆が緊張して見守る中“卵のグラタン”を一口食べた国見シェフは、鬼のように厳しかった表情がゆるみいきなり涙を流します。
 慌てて事情を聞いてみると、何と国見シェフは今は亡き真理さんのお父さんの元部下だったそうで、お父さん似だった真理さんの姿を見た時から「もしや…」と思い、厨房での試験をお願いしたとの事。
 生意気で喧嘩っ早かった自分の面倒をよく見てくれた、スイスの日本大使館の料理長の座を自分になるよう強く推薦してくれたと語り、「私が今あるのは、全て斐馬先輩のおかげです。斐馬先輩があなたの中に生きていて嬉しい。礼をいえないまま、先輩は亡くなってしまった…」と溢れる涙を止めようともしませんでした。
 そして、その恩を返す為と、基本中の基本である“卵のグラタン”をお父さんの味そのままに再現できた真理さんの為なら、喜んでカドヤに出店すると国見シェフは約束してくれます。
 正直、ここまで幸運続きだと「ご都合主義…」と見る向きも少なくないかもしれませんが、今回の出店は主人公の真理さんの無鉄砲な行動力や、お父さんの味を忠実に受け継いでいた事が大きく物語に作用していたと思いますので、個人的には全然アリな回でした(^^)。

 こうして、カドヤはギリギリながらも無事国見シェフのお店を改装開店までに完成させる事ができ、M百貨店や赤城シェフを「えっ!国見シェフが入っただと?!」「業界騒然で、取材がほとんどあっちに行っててこっちが目立たない…」と気持ちいいくらいギャフンと言わせ、見事逆転勝利を果たすのでした。
 向上心があるのはいい事なのでそれについては何もいえませんが、せめて最低限の仁義は大事にしないと痛い目をみるという教訓を感じるエピソードです。
奇遇な事に、今は亡きお父さんの後輩が国見シェフでした!
 こういう「ギリギリの火加減」「難しい技術」が必要になる料理は不得手なので、再現しようかしまいか悩みましたが、作中の表現があまりにおいしそうなので再現を決意しました。
 プロ並に作るのは無理だとしても、可能な限り上手に作れるよう頑張ろうと思います!


 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、モルネーソース作り。弱めに熱したフライパンへバターと薄切りにした玉ねぎを入れてしんなりするまで混ぜ合わせ、小麦粉を入れたら焦がさないよう粉っぽさがなくなるまで炒めます。
 小麦粉とバターが完全になじみきったら牛乳を加え、ダマが出来ないようなめらかなとろみがつくまでじっくり火入れしながら混ぜます。
卵のグラタン1
卵のグラタン2
卵のグラタン3
 ナツメグパウダー、ローリエ、塩、こしょうを投入して味を調え、全体が少し煮詰まってくるまで丁寧に混ぜます。
 ソースがもったりしてきたらローリエを取り出し、火を消して漉し器かザルで漉したらモルネーソースの元になるベシャメルソースの出来上がりです。
 ※いわばホワイトソースのような物なので、これでグラタンを作ってもOKです。
卵のグラタン4
卵のグラタン5
卵のグラタン6
 このベシャメルソースを再び火にかけ、ピザ用チーズを加えてまんべんなく混ぜながら溶かしたら火からおろし、粗熱がとれた所で生の卵黄を入れ、泡立て器で手早くかき混ぜます。
 これで、グラタンの元になるモルネーソースは準備万端です。
卵のグラタン7
卵のグラタン8
卵のグラタン9
 次は、焼き作業。
 グラタン皿に先程のモルネーソースを半分入れ、その上に生卵をそっと落としたらまたモルネーソースをかけて表面を覆い、最後に溶かしバターをスプーンで回しかけます。
 このグラタン皿を高温に熱したオーブンに入れ、表面はパリッと、中はフワッとなるまで小まめに様子を見ながら焼き上げます。
 ※あんまり火を通しすぎると卵がガチガチになるので、確実に成功したい時は程々焼いた後にガスバーナーで強引に表面をパリッとさせるのもアリです。
卵のグラタン10
卵のグラタン11
卵のグラタン12
 グラタンが香ばしく色づいてきたらオーブンから取り出し、まだグツグツ入っている内にテーブルへ運べば“卵のグラタン”の完成です!
卵のグラタン13
 見た目はごく普通のグラタンという感じで、強いて言うなら少し黄色を帯びているのが印象的です。
 香りは溶かしバターの芳しい香りがすぐさま鼻をくすぐる為、「匂いだけでパンが食べられそう…」とうっとりしました。
 グラタン=ホワイトソースだったので、一体どんな味がするのか楽しみです!
卵のグラタン14
 それでは、まだ熱々な内にいざ実食!
 いっただっきま~すっ!
卵のグラタン15


 さて、味わいはと言いますと…極上のフワトロ加減に仕上がっているモルネーソースが絶品。こんなにおいしいソースがあるとは、衝撃です!
 味わいはホワイトソースに卵の風味をプラスしてぐっとリッチにした感じで、普段食べているグラタンよりもずっとフワフワしているのに感嘆させられました。
 ソース自体にチーズを溶け込ませているせいかこってりし過ぎずまろやかで、最初は卵黄の旨味や牛乳のクリーミーさで隠れてはいるものの、後からじんわりとチーズ本来のふくよかなコクが伝わって来ます。
 その上、ナツメグのスパイシーな香りやローリエの爽やかな風味が後口をすっきりさせてくれる為、とてもバランスよく思いました。
 クリームブリュレみたいになめらかな舌触り、茶碗蒸しのようなフルフル感、カスタードクリームにそっくりなとろけるような口当たりが美味で、表面のカリカリになってチーズ味が濃くなった部分とよく合っています。
 とにかく、クリーム系にしては信じられない程柔らかく、ホワッと軽い食感なのが特徴的でした。
 このモルネーソースに、ホロホロの半熟状になった白身が混ざるとややあっさりした後味になり、半分ホコホコ半分トロリと仕上がった卵黄を絡めて食べるとさらに濃厚な味わいになる感じで、部分ごとに大分印象が異なってくるのが面白いです。
 バターのコクと卵のコクが複雑に入り交じっているせいか単純ながらも奥深い旨さで、玉ねぎの素朴な甘味が全体を優しい味付けにしているのにほっと癒される一品でした。


 ホワイトソースを使う料理にこのモルネーソースを使ったら、格段に味がレベルアップしそうだと思いました。
 シンプルなのに飽きがこない味なので、一度は是非ご賞味して頂きたい一皿です。

●出典)『おいしい銀座』 作画:酒川郁子 原作:九十九森/創美社
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2012.12.20 Thu 01:24  |  

モデルは<ペイ・ナタール>=三國清三シェフでは? 顔も似てますし、経歴もそのまんまだし・・・・

2012.12.29 Sat 20:03  |  

あんこさんこんばんは!
いつもおいしそうな、そして丁寧な記事に魅了されております。
卵大好きなもので、今回、卵のグラタンを作らせていただきましたー!
材料のイメージ以上に軽いソースに、本当びっくりしました。モルネーソースなんて、しきいが高そうだったのに…今回勇気を出して作ってみた!
タマネギと本当に相性がいいですよね。
思ったより軽い食感で、びっくりです!
これからも楽しい記事を楽しみにしております…!!

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Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
 …『テルマエ・ロマエ』
 …『土曜日ランチ!』
 …『BAR・レモンハート』
 …『百姓貴族』
 …『ぶたぶた』シリーズ
 …『ベーグル食べない?~幸せカフェごはん~』
 …『飯盛り侍』
 …『夢色パティシエール』


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