『そうざい料理帖』の“焼太打ち冷や麦”を再現!

 グレゴリ青山先生の旅行漫画を読んでいると、旅に出たくてしょうがなくなります。
 海外の気ままでちょっぴりデンジャラスな旅は勿論の事、ご自身の故郷である京都のおすすめ観光スポットのご紹介は読み応えがあり、「外国にリュックを背負ってぶらりは無理でも、京都へ言って寺院めぐりは数年以内に実行したいな…」と羨望のため息をついています。
 どうも、『源氏物語』にも出てきた奈良の長谷寺で牡丹を横目に参拝もしてみたいという願望を持っている管理人・あんこです。


 本日作ってみる再現料理は、『そうざい料理帖』にて池波正太郎先生が昭和六十一年の春から夏の境目に作った夜食の“焼太打ち冷や麦”です!
焼太打ち冷や麦図
 『そうざい料理帖』とは、著名な歴史小説作家であると同時に指折りの美食家でもあった故・池波正太郎先生が各作品を執筆されていた時期に発表していたエッセイや日記に描かれていた食の小話を抜粋し、えりすぐりのグルメエピソードばかりを一冊に詰め込んだ、食いしん坊にはたまらない食事エッセイ本です。
 登場する料理のほとんどは東京下町風のおそうざいで、書かれているレシピや感想も数行で終わるくらいシンプルかつ地味な物が多いのですが、材料が身近なだけ余計に想像力がかき立てられ、夜中に読むとお腹が鳴る事必至です。
 それも、単にグルメに関する事ばかり書くのではなく、池波正太郎先生の何気ない日常が淡々とした文で綴られているのが何とも言えず味があり、グルメ本というよりもはや一文学作品、私小説と呼んでも過言ではない完成度に仕上がっているのに唸らされます。 
 ちゃんと四季別に料理がまとめられているのが読みやすい上に気分が乗りやすく、中でも春の“貝柱と三つ葉のかき揚げ”、夏の“白瓜のサンドイッチ”、秋の“一夜漬けソースカツレツ”、冬の“合鴨入り生卵のぶっかけ飯”は紹介されているエピソードから食事描写に至るまで巧みなので、個人的に惹かれました。
 また、美味しそうな食べ物だけではなく、時折はっとさせられる独白があるのも特徴的で、それらの中で当管理人が特に心に残った、もしくは強く頷いた文章は、下記になります(以下、『そうざい料理帖 巻一』より引用 )。


 ―他人に見せるためのおしゃれのみではないのである。
 ―食物のことしか書いてない日記を読返すと、何年も前の、その日にあった出来事をまざまざとおもい起すことが、たびたびあるのだ。
 ―今日の夕食は、身にも皮にもならなった。
 ―男が逆境の中にあって、一念を凝らし、目標に向かい無言の苦しみに耐えている姿は、まことに美しい。また、その逆境をたのしむ余裕がなくては、この苦闘はつづかぬものなのだ。


 短く簡潔、それでいてセンスがあり、つっかえることなくすらすらと滞りなく流れる清流の如し文章は溜息もので、改めて小説家となるべくしてなられた方なのだと実感させられる事しきりです。
 あと、何年の何月頃に池波正太郎先生がどんな小説を読んだのか、どういった映画を鑑賞したのか、どの作品を執筆中だったのか、そしてそれらをこなした後にどのような食事をしたのかが克明に記録されている為、後々『鬼平犯科帳』シリーズや『剣客商売』シリーズを読み返す際に「この頃、先生はあんな料理やこんな料理を食べたりしながら、このシーンの構想を練っていたのだろうなぁ」という空想の余地がある為、そういう舞台裏をお知りになりたい方には心からお勧めしたいです。

 今回再現するのは、夏の章でご紹介されていた“焼太打ち冷や麦”。
 日記によると、これは昭和六十一年五~六月頃の夜に池波正太郎先生がさっと作られて食べた夜食だとの事で、この夜から夏の直木賞候補作の諸編を読み始めたとの事でした。
 大抵、八月の蒸し暑い夜となると食が細くなりやすいのが常だと思うのですが、作中には「これから夏にかけての私は、食欲だけが盛んになる」と頼もしい言葉が書かれており、さすがだな~と感心させられます。
 その昔、ある小説でイギリス人が「いい知恵はいい胃袋から生まれる」という格言を持ち出していた事があったのですが、池波正太郎先生もまさにこの例に漏れないタイプだったのではと思います。
 作り方はこれ以上ないくらい簡単で、ハムと玉ねぎと冷や麦を一緒に炒めて味付けしたらもう出来上がりだとの事でしたが、残念な事に調味料は何を使ったのか明記されていませんでした;。
 ただ、『そうざい料理帖』を始めとする数多くの作品では、麺料理は醤油・みりん・日本酒を多用した調理をしているので、恐らくこの時もそんな感じで和風味に仕立てたのではないかな~と勝手に推測しています。
焼太打ち冷や麦の想像図だそうです
 余談ですが、実はこの日、池波正太郎先生は“焼太打ち冷や麦”を食べる前に『八月の鯨』の主役を演じた名優・リリアン=ギッシュが出演した映画『ハンボーン』を見ており、日記で「大したものなり」と感想を述べています。
 まさか、私の大好きな『八月の鯨』と池波正太郎先生がこんな所で僅かながらでも接点があるとは思いも寄らなかった為、初見時は大変衝撃を受けたのを覚えてます(失礼ながら、あまり知名度の高い映画や女優さんではないだけに余計感動は大きかったです)。
 こういう思いがけない偶然とも縁とも呼べる発見があったせいか、“焼太打ち冷や麦”は是非とも作りたいと記憶の片隅にいつもありました。
 ちょうど冷や麦はお中元で頂いた物がまだ残っているので、さっそくそれを使って再現してみようと思います!


 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、それぞれの材料の用意。冷や麦は後々再度火を通す事を考慮してやや硬めに茹で、冷たい流水でシメながら手でもみ洗い、ザルで水気をよく切っておきます。
 一方、油を少々ひいて中火にかけたフライパンへ、くし切りにした玉ねぎと短冊切りにしたハムを投入し、そのまま軽く炒めます。
焼太打ち冷や麦1
焼太打ち冷や麦2
 玉ねぎがシンナリしてきたら先程の冷や麦を加えてさらに炒め合わせ(麺がほつれないように、油を全体に馴染ませる事を意識しながら混ぜます)、具と冷や麦が合わさったらすぐに醤油、みりん、日本酒を入れて味付けをします。
 ※具が似た感じなせいか、「ここにケチャップを投入したら、冷や麦で代用した昭和レトロ風ナポリタンと言えなくもない出来栄えになるかも…」という錯覚に陥りました;。
焼太打ち冷や麦3
焼太打ち冷や麦4
 味見してお好みの塩加減になったのを確認したら火を止め、お皿へ具ごと一気に盛り付ければ“焼太打ち冷や麦”の完成です!
焼太打ち冷や麦5
 なるべく作中通りに再現してみましたが、当管理人の腕の無さが災いして今ひとつそそらない見た目になってしまいましたorz。
 麺はパッと見だと、まるで「白いパスタのリングィーネ」とでも言いたくなる感じです。
 そうめんやうどんは炒めて食べる場合もままあった為違和感はありませんが、冷麦は炒めたことが無かったので、一体どんな食感なのか楽しみです。
焼太打ち冷や麦6
 では、熱々の内にいざ実食!
 いただきまーす。
焼太打ち冷や麦7


 さて、味の感想ですが…焼きうどんとも焼きそばとも異なる面白い味!あっさりした味で食が進みます!
 冷や麦を炒めて食べるのは初めてでしたが、うどんやそばよりも油にしっくり馴染む旨さだった為、「冷や麦はむしろ、炒めて食べる方が向いた食材なのでは…」と感じました。
 柔らかめに茹でた物は「縁日でよく見掛ける、炒め過ぎのふにゃふにゃ焼きそば」(←驚きですが、真剣に冷や麦使ってる屋台があるんじゃないかと思わず疑ってしまうくらいそっくりでした;)、硬めに茹でた物は「うどんみたいな味がするやや太めな和風スパゲティ」というイメージで、細すぎず太すぎずな麺に調味料がよく絡む為、とても食べやすかったです。
 うどんに比べると喉越しには欠ける感じではありますが、その分軽く入っていくのでまさに夜食にぴったりな一品だと感じました。
 日本酒の奥ゆかしい香りとみりんの上品な甘味が効いた和風醤油味が冷や麦にぴったりで、味自体は和風醤油焼きうどんとほぼ同じな為、どことなく懐かしい気持ちになります。
 ハムの旨味と玉ネギの甘味が冷や麦へしっかり絡んで、素っ気なさすぎる味わいになるのをガードしており、凝ってはいないものの気楽に楽しめる旨さなのが大いに気に入りました。
 醤油の他にはソース味が合いそうなので、ボリュームが欲しい時はキャベツやにんじんをプラスして作ると良さげです。


 凝った味ではなくどちらかといえばジャンクな味なのですが、その分ふとした時に食べたくなるざっかけない料理という感じです。
 使う油をごま油やオリーブ油に変えたり、調味料を色々試してみたり(例:ケチャップ、オイスターソース等)みても面白そうです。

○追記
 右に明記しています「再現料理を予定中の漫画」一覧に変更がありますので、念の為簡単に明記します。
 ・『鬼平犯科帳』シリーズ→『剣客商売』シリーズへ変更
 ・大田垣晴子先生の『きょうのごはん』を追加

●出典)『そうざい料理帖』 池波正太郎/平凡社
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2012.09.23 Sun 07:00  |  食いしん坊職人

あんこさん、おはようございます。いつも楽しく拝見しています。

個人的に、池波正太郎先生は、芸術家的作家というより、職人的な
作家と認識しています。「読者に読み易く楽しめる文章を提供する
高度な技術を持つ」職人的な作家。この技術は膨大な作品群を執筆
する中で、文字通り体に染み込ませるように体得されたものだと
思います。その証拠に初期の作品を読むと、文章が硬く少々読み
辛いように感じます。文章の長さ、漢字と平仮名のバランス、句読点
の位置、文章の構造など、試行錯誤を繰り返しそれを感覚として
身に付けた人が書く文章だからこそ、あんなにも読み易く面白いの
だと。

あんこさんの記事中でも書かれていますが、美味しそうだと評判の
食事描写も「味は、香りは、色は~」などの描写は一切無く、料理法と
それを食べた人の若干のリアクションがある程度で、想像力を刺激
されるのか、読むとヨダレかあふれますね。時にはリアクションすら
なく、「豆腐と茄子の煮つけで熱い酒を飲み始めた」なんて一文だけ
でたまらない気持にさせられます。

今回の記事の本は読んでいないので、どんなエッセイからの抜粋が
あるのか判りませんが、池波先生のエッセイで、映画や日常に関して
なら、『池波正太郎の銀座日記』(毎日のように出かける映画の
試写会とその日に食べたものをつづった小エッセイ集)、食べ物に
関しては『食卓の情景』(食に対する思い出や、考え、対談をまとめた
エッセイ集)がおすすめです。伊賀上野の「金谷」というお店で伊賀牛
のバター焼きを食べたときの、同行の挿絵画家氏が肉をほおばり、
「むう、こりゃあ…こりゃあ、いい」と言う話などお腹が空くこと間違い
なしです。

それと、最後に『剣客商売』の漫画版だと、僕はさいとうたかを先生
より大島やすいち先生の方が女性が可愛らしくて好きです。

長々と失礼しました。では、また~。

  • #SFo5/nok
  • kawajun
  • URL
  • Edit

2012.10.01 Mon 01:11  |  

> 麺料理は醤油・みりん・日本酒を多用した調理をしているので、恐ら
> くこの時もそんな感じで和風味に仕立てたのではないかな~と勝手
> に推測しています。


濃い目に塩梅しちゃったせいか、生卵落としたら旨かったですよ。

ていうかスキヤキの〆に拵える煮込みうどんじゃん、になったよ。うまし。

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プロフィール

あんこ

Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
 …『テルマエ・ロマエ』
 …『土曜日ランチ!』
 …『BAR・レモンハート』
 …『百姓貴族』
 …『ぶたぶた』シリーズ
 …『ベーグル食べない?~幸せカフェごはん~』
 …『飯盛り侍』
 …『夢色パティシエール』


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・各作品に掲載されているレシピの分量は、例外なく全て非公開にする方針を取っておりますので、ご了承の程をお願いいたします(←この件についてご質問頂いた場合、誠に失礼ながら下記の理由でご返信しない方針にしております)。

※現在、公私の多忙と、再現記事のペース維持を理由に、コメント欄へのご返信が出来ない状態が続いております。
 こういう場合、コメント欄は停止するべきなのかもしれませんが、励ましのお言葉やアドバイスを頂く度、ブログのモチベーションアップや心の支えとなったこと、そして率直なご意見や情報を聞けてとても嬉しかったこともあり、誠に自分勝手ながらこのままコメント欄は継続する事に致しました。
 図々しい姿勢で恐縮ですが、ご返信をこまめに出来なくて余裕がある分、ブログ内容を充実&長期的に続けられるよう力をいれる事で皆様のご厚意にお応えし、感謝の気持ちをお返ししていきたいと考えております。
※ただ、ご質問を頂いた際はなるべくお力になれるよう、すぐご返答できるように対処致します。

 応援して下さる方々に少しでも楽しんでご利用して頂けるよう、沢山の作品に触れるちょっとしたきっかけになれるよう、これまで以上に心掛けていきます。
 恐れ入りますが、よろしくお願い致します。

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