『心星ひとつ―みをつくし料理帖』の“賄い三方よしの豆腐丼”を再現!

 とうとう、今日の記事で再現料理数の合計が五百個目になりました(^^;)。
 三百個目に突入したくらいの時、「五百個くらい再現したら満足するはずなので、その時は本や映画のレビューサイトにしようかと…」という事を前置きに書いていた記憶がありますが、まだ満足していないのでもうちょっとだけ続く事になりそうです。
 我ながら呆れますが、食べたい&再現したい料理が尽きぬ限り、引き続き再現料理をご紹介していきたいと思います。
 
 どうも、こんなに食欲だけが突出していたら将来餓鬼道に落ちるんじゃなかろうかと心配している管理人・あんこです。


 本日作る再現料理は、『心星ひとつ―みをつくし料理帖』にて主人公の澪ちゃんがりうさんの為に作った“賄い三方よしの豆腐丼”です!
心星ひとつ―みをつくし料理帖 
 小説「みをつくし料理帖」シリーズの第六巻にあたる『心星ひとつ―みをつくし料理帖』は、澪ちゃんにとってまさに激動の時期だった二十一歳の年、七月から十月にかけて起こったエピソード四話をまとめた作品です。
 ―身分の高さを隠して<つるや>へ通う御膳奉行・小松原様への決して叶わぬ淡い恋。
 ―吉原にて懸命に生きているかつての幼なじみ・野絵ちゃんを取り戻したいという切なる願い。
 ―かつての主・嘉兵衛さんから託された<天満一兆庵>再建の夢。
 ―数年前から消息不明の芳さんの息子・佐兵衛さんの情報と行方探し。

 これまで澪ちゃんの行動理念となってきた四つのテーマが、ここにきて一気にストーリーに絡んでくるようになり、それに従って何度も厳しい選択を突きつけられるようになった澪ちゃんは、その都度大いに苦悩することとなります。
 中でも胸が痛んだのは、ラストに近づくにつれて迫られる「料理人として生きるか、それとも恋に生きるか」という究極の問いに対して、自問自答する澪ちゃんの姿。
 どちらかを選べば確実に誰かを永遠に失ってしまうという、心優しい女性にとってあまりに酷な事態に直面した澪ちゃんは、それでも辛うじて一度はきっちり結論を出すのですが、次々と断ちがたい人達の「澪ちゃんには、幸せになって欲しい」という優しく悲しい思いやりの心に触れるにつれ、身を引き裂かれるような気持ちを味わいます。
 そして、最終的に澪ちゃんは、自分の中心に「これだけは譲れない」と存在する生きる標―心星をやっと見つけ出し、物語は大きく進展します…。
 これまでの巻は、澪ちゃんの優しさと心意気、そして料理への情熱によって問題が解決していったせいか、ほろ苦い展開のお話があっても結果的には勧善懲悪物を読み終えた後のように爽やかな読後感で本を閉じる事が出来たのですが、『心星ひとつ―みをつくし料理帖』は「本当に、これでよかったのか?」というやるせなさと、心臓をギュッと掴まれたような重く切ない気持ちに襲われる、初めての巻になりました(第七巻目の『夏天の虹―みをつくし料理帖』もそれまでとは異なった読後感でしたが、「切なさ」というよりは「衝撃」が強い巻だったので、これまた違ってきます)。
 自分の幸せよりも周囲の人たちの幸せを一番に考える澪ちゃんだからこそ応援したくなる気持ちも確かにあるのですが、「お前には心底、失望した」と深い哀しみを込めて言った清右衛門さんの気持ちも、澪ちゃんと片方ずつ大切に持ち合っていたはまぐりの片貝を返してきた野絵ちゃんの気持ちも、双方理解出来るだけにやりきれませんでした。
 作中で芳さんは「あちこち欠けて傷ついて、それでも人は生きていかなならん。何と難儀なことやろか」と小さいため息をついていますが、第七巻を読んだ今になって考えてみると、皮肉にもこれは澪ちゃんのその後を不気味なくらい予言した言葉のように思えてなりません。
 一読者としては、二つの選択を迫られたら全く新しい三つ目の案を出して「これなら、みんな幸せになるのでは?」と言えるくらい、澪ちゃんにはいい意味で図太くなって欲しいと願っています。

 今回ご紹介するのは、第二話「天つ瑞風」のエピソード。
 ある日、<つるや>はほぼ同時期に大きな話が舞い込み、大混乱になります。
 というのも、<翁屋>の桜主・伝右衛門さんからは「吉原で<天満一兆庵>を再建しないか」、<登龍楼>の主・采女宗馬さんからは「神田須田町の<登龍楼>を居抜きで売るので、<つる家>として営業しないか」と妙にうまい話が二つもきた為。
 当初は罠かもしれないと身構えていた澪ちゃん達ですが、条件だけ見るならば決して悪くない話である事が次第に分かってきたのもあり、種市さんと芳さんは澪ちゃんにお話を受けた方いいとそれぞれ打ち明けてくるにまで態度を軟化させるようになります。
 実を言いますと、澪ちゃんは少し前に名店<一柳>の老主人・柳吾さんから「このまま<つるや>にいたら、あなたの料理人としての器はここまで。小さいままですよ」という言葉を投げつけられてショックを受けていたのもあり、本心はこのまま<つるや>にいたいと考えつつも、料理人として成長するにはどちらかを選んだ方がいいのだろうかと悩みに悩み抜きます。
 そんな時、澪ちゃんから相談されたりうさんは「与えられた器が小さければ、自分で大きくすりゃあすむ事ですよ」「‘ここまで’かどうかを決めるのは他人ではなく、自分自身でしょう」といとも簡単に言い、澪ちゃんが決意を固めるきっかけを与えていました。
 何でも、りうさん曰く「男も女も人生の仕組みが分かるのは七十過ぎてから。六十代なんざ、まだ青臭い若造ですとも」だそうで、六十半ばの柳吾さんを「若いわね~」と笑い飛ばしていました;。
 いやはや、相変わらずりうさんの言葉には説得力と凄みがありまくりです(^^;)。
 実をいいますと、<翁屋>も<登龍楼>も裏の本音はトンでもなかった事が後に判明しており、もしこの時りうさんがみんなをクールダウンさせていなかったらかなりえらい事になっていた可能性がある為、それを思うと背筋に寒いものを感じた回でした…;。
 大人の陰謀の黒さと、「うまい話にはご用心」という教訓を実感すると同時に、最後には短くも濃密な再会を果たした澪ちゃんと野絵ちゃんの儚い逢瀬が記されていますので、第二話「天つ瑞風」は、『心星ひとつ―みをつくし料理帖』の中で個人的に最も大好きなお話です。
 ちなみに、これらのお話をする前にりうさんが澪ちゃんに作ってもらって食べていた夜食が、今回再現する“賄い三方よしの豆腐丼”。
 作り方は素っ気ないほど簡単で、塩入りのお湯でゆっくり火を通した柔らかい豆腐・刻みネギ・カツオ節・しょうがを冷や飯にどっさり乗せ、仕上げに醤油をかければ出来上がりです。
 澪ちゃんが言うには、この“賄い三方よしの豆腐丼”は<つるや>では定番の賄い飯との事で、「質素な上にお行儀も悪く、人に出せるものではないのだが、賄いでこれを口にすると、何とも幸せになる」と語られていました。

 元々豆腐丼は大好きで、人前はともかく家では何度も作っている料理だった為、「この豆腐丼はどんな味なんだろう」と再現を決意しました。
 巻末にある詳細なレシピを参考に、早速作ってみようと思います!


 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、豆腐の下準備。水を張った鍋に寄せ豆腐を入れて弱火にかけ、クツクツ沸いてきたら塩を加え、そのまま豆腐の中心にまで熱を通します。
 ※澪ちゃんが実際に使った豆腐は、作中にて「豆腐を作る途中で早く重石を外しすぎた出来損ない」、「普通の豆腐よりは遥かに柔らかいが、淡雪豆腐などの柔らかさには到底およばない」とそこそこ詳しく表記されていましたが、どういう種類の豆腐かは正確に書かれていない為、何を使うべきか少々悩みました。
 ただ、レシピ欄には絹ごし豆腐と表記されている事と、普通の豆腐よりは柔らかいという表記を考慮して、豆腐を作る途中にふわふわ固まってきた豆乳を圧縮せずにそのまま箱に入れてふんわり固めた寄せ豆腐を代用品として使用する事にしました。
賄い三方よしの豆腐丼1
 豆腐全体が暖まったらすぐに火からおろし、鍋から豆腐を形を崩さぬよう気をつけながら引き上げ、水気を切ります。
 なお、豆腐のかけらが残って少々にごったこのお湯は味噌汁に再利用出来ます(豆腐の甘みを感じる、美味しい味噌汁になるのでお勧めです)。
賄い三方よしの豆腐丼2
 次は、盛り付け作業。
 丼茶碗に冷や飯(炊き立てのご飯をよそい、そのままラップをして冷ました物がいいです)、その上へ大き目の匙ですくった寄せ豆腐を乗せます。
 そこへカツオ節と刻みネギを「ちょっと多いかな?」と心配になるくらいたっぷり散らし、おろししょうがを乗せます。
 ※何気にしょうがが重要な役割を果たしていたので、余程苦手でない場合は気持ち多めに乗せる事をお勧めします。
賄い三方よしの豆腐丼3
賄い三方よしの豆腐丼4
賄い三方よしの豆腐丼5
 具を乗せ終えたら醤油をお好みでかけまわし(おろししょうが自体にもちょっとかけた方がいいです)、お箸と共に机へ運べば“賄い三方よしの豆腐丼”の完成です!
賄い三方よしの豆腐丼6
 しょうが醤油の爽やかな香りと、かつおぶしのふくよかな香りが、豆腐からほのかに立ち上る湯気によってふわりと鼻腔を刺激してくるのがなんともいい感じでした。
 あっさりした食材ばかりなので、食欲がない時でも「これなら…」と手が伸びそうです。
 火を通した割には思ったよりも豆腐が柔らかいままだったので、これは味期待が持てます。
賄い三方よしの豆腐丼7
 それでは、豆腐が熱々の内にいざ実食!
 いっただっきまーす!
賄い三方よしの豆腐丼8


 さて、味の感想はと言いますと…シンプル・イズ・ベストという言葉を痛感させられる美味しさ。食欲がなくてもサラサラ~ッと喉を通ります!
 まるで絹のように滑らかでプルプルした舌触りの温かい豆腐と、シャキシャキシャリシャリした小気味良い食感の刻みネギの取り合わせが格別で、ふっくら感を残しつつひんやり冷えたご飯と徐々に合わさり、最初はバラバラだったのが口の中でほんのりぬくい温度に変化していくのが心地よいです。
 大抵、火を通した豆腐はどんなに柔らかい物を使ったとしても僅かながら固くなるものですが、慎重に煮たのが功をなし、上出来な湯豆腐のようにフワッとした口当たりになった為満足しました。
 出汁は全く使っていないものの、噛めば噛む程たっぷり振り掛けたカツオ節から濃密な旨味エキスがグイグイ染み出てくるので、十分ちょうどいい味付けになっていくのがよかったです。
 寄せ豆腐はザル豆腐のような濃厚感を持っているくせ、それよりは適度な硬さを持っている為食べやすく、個人的にはどの豆腐よりも好みでした。
 塩によって大豆本来のふくよかな甘味がさらに引き立った豆腐と、冷えた事によって素朴な甘さが際立ったご飯が相乗効果で旨さがより膨らんでいくのを、しょうが醤油のキリリとした辛味と清涼感のある風味がいい塩梅に引き締めてくれるのが何とも言えず美味で、冷や奴好きには堪えられない一品だと思います。


 寄せ豆腐が一番お勧めですが、手に入らない場合は普通の絹ごし豆腐やざる豆腐で作ってみても充分美味しいと思います。
 あと、しょうがの代わりにわさびやもみじおろしを乗せてもなかなかよかったです。

○追記(2012.9.25)
 これは、コメント欄では無記名さん・リアルでは知人からメールで言われて分かった事ですが(kawajunさん、ご指摘ありがとうございます!)、確かに『花のズボラ飯』に出てくる“ハナさん流明太子丼”と“賄い三方よしの豆腐丼”は材料が結構似ています;。
 ただ、“ハナさん流明太子丼”は冷ご飯ではなく温かいご飯をさらに電子レンジにかけて熱々にしたり、明太子をいっぱい乗せたり、おまけにしょうがはかけてなかったりと細かい点での差異が目立ちますし、なんと言ってもあちらでは発案者の青年が「バターが超重要!」と力説しているように、バターがあるかないかでは「もはや別物…」と言いたくなるくらい味が違っていたので、個人的にはほぼ別料理だと思いました。
 なので、機会があれば食べ比べしてみるのも面白いかもしれません(^^;)。

●出典)『心星ひとつ―みをつくし料理帖』 高田郁/角川春樹事務所
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2012.09.24 Mon 18:48  |  

それ、めんたいこのっけたら、もっと旨くねぇ
あと、コクを出すため、バターヒト欠け落とすといいかも…
って、おいw

  • #-
  • URL

2012.09.25 Tue 12:22  |  っていうか、それは…

『花のズボラ飯』の「ハナさん流明太子丼」ですね。
あんこさんが既に再現されてますよ〜。

それはさておき…。
500突破おめでとうございます!
この調子で1000を目指してはいかかでしょう?
それぐらいやれば、落ち着くのでは。

  • #SFo5/nok
  • kawajun
  • URL
  • Edit

2012.09.26 Wed 05:22  |  再現料理500回目おめでとうございます!

このブログを拝見させて頂いてもう1年ぐらいになりますが初めてコメントさせていただきます。
再現料理、『魔女の宅急便』の“ニシンとカボチャのパイ”を最初に拝見させていただいてそれから1年、記事が更新される度に「おいしそうだなぁ、作ってみようかなぁ」と思う毎日でした。

お忙しい中だと思いますがこれからも再現料理の方頑張って下さい、陰ながら応援しております!

  • #PHBIPXM2
  • tomy0420
  • URL
  • Edit

2012.09.28 Fri 11:58  |  はじめまして。

いつも楽しみに拝見させて頂いております。再現料理500回おめでとうございます!!子どもの頃から「ミスター味っ子」好きの私に、姉が「再現しているブログがあるよー」と教えてくれたのがきっかけでした。寿司サンドウィッチなどのまさかの再現に衝撃を受けました。。
料理はもちろん、本や、まんがも影響を受けて読み始めた作品も多いです(みをつくし料理帖もそのひとつです)

お忙しい中、これだけの再現ブログを続けられるあんこさん、すごいなぁ。といつも感心しております。これからも楽しみにしてます!長々とすみません。。

  • #-
  • moico
  • URL

2012.09.30 Sun 07:09  |  

どれもうまそう。

  • #-
  • URL

2012.10.02 Tue 07:43  |  


これもまた美味そうですね(^w^)

みをつくし料理帖が実写ドラマに成りましたねぇ

  • #-
  • URL

2013.05.04 Sat 19:51  |  管理人のみ閲覧できます

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Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
 …『テルマエ・ロマエ』
 …『土曜日ランチ!』
 …『BAR・レモンハート』
 …『百姓貴族』
 …『ぶたぶた』シリーズ
 …『ベーグル食べない?~幸せカフェごはん~』
 …『飯盛り侍』
 …『夢色パティシエール』


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・各作品に掲載されているレシピの分量は、例外なく全て非公開にする方針を取っておりますので、ご了承の程をお願いいたします(←この件についてご質問頂いた場合、誠に失礼ながら下記の理由でご返信しない方針にしております)。

※現在、公私の多忙と、再現記事のペース維持を理由に、コメント欄へのご返信が出来ない状態が続いております。
 こういう場合、コメント欄は停止するべきなのかもしれませんが、励ましのお言葉やアドバイスを頂く度、ブログのモチベーションアップや心の支えとなったこと、そして率直なご意見や情報を聞けてとても嬉しかったこともあり、誠に自分勝手ながらこのままコメント欄は継続する事に致しました。
 図々しい姿勢で恐縮ですが、ご返信をこまめに出来なくて余裕がある分、ブログ内容を充実&長期的に続けられるよう力をいれる事で皆様のご厚意にお応えし、感謝の気持ちをお返ししていきたいと考えております。
※ただ、ご質問を頂いた際はなるべくお力になれるよう、すぐご返答できるように対処致します。

 応援して下さる方々に少しでも楽しんでご利用して頂けるよう、沢山の作品に触れるちょっとしたきっかけになれるよう、これまで以上に心掛けていきます。
 恐れ入りますが、よろしくお願い致します。

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