『剣客商売』の“おはるの鴨御飯”を再現!

 再現料理を予定中の漫画一覧に、『夢色パティシエール』と『鬼平犯科帖』シリーズを追加しました(自業自得なのですが、減っては増えるの繰り返しの為、最近は賽の河原の石積みに似ていると感じています;)。
 こちらの方も、焦らずマイペースに作れたらな~と考えています。

 どうも、先日お寺で飼われているお触り&餌やりOKな猫達に会いに行った時、当管理人の方ばかり猫が集まって相方さんから「俺の方が前から猫缶あげてるのに」とすねられてしまった管理人・あんこです。


 今回作る再現料理は、『剣客商売』にて主人公・秋山小兵衛さんの妻であるおはるさんが作った十八番の料理・“おはるの鴨御飯”です!
池波正太郎『辻斬り』収録作品~老虎~
 時代小説『剣客商売』とは、無外流(元は甲賀発祥の流派だったらしく、何と新撰組の斉藤一も使い手だったとか)の名手である老剣客・秋山小兵衛さんが主人公。
 一旦は年齢を理由に道場を閉め、おはるさんと遅い再婚をしたのをきっかけに剣も世も捨てて隠棲しようとしていたのですが、同じく凄腕の剣客である息子・大治郎さんが修行を終えて江戸へ帰ってきて再会したのを境に、何故か様々な事件に巻き込まれるようになり、生来のお人好しと好奇心旺盛な性格が災いして否応なしにまた剣をふるって解決していくようになる日々を描いた作品です。
 ちなみに、時代は1777年~1787年の江戸時代中期が舞台となっています。

 『鬼平犯科帳』に並ぶ池波正太郎先生の代表作で、剣に生きる男達が活き活きと描かれている為、どの作品よりも比較的硬派な仕上がりになっています。
 かと言って、剣以外には興味を示さない朴念仁ばかりが登場するという事は決してなく、むしろ芸術や食にも関心を抱き、悪党に苦しむ市井の人々を積極的に救う人情味溢れる主人公が軸となって話が展開する為、ハードボイルド系が苦手な方にもすんなり読みやすいのが特徴です。
 正直、読書前は「老いてなお盛んで剣の腕も衰えていない男性…結構頑固で、人の話を聞かないタイプなのかな」とちょっと不安になりながら読んだのですが、実際の秋山小兵衛さんは自分の方が人生のキャリアが上なのにも関わらず若者達の中に威張ることなく飛び込んで話を聞き、信じるに足ると思った相手には歳の差など関係なしに尊重して、年長者ではなく一人の人間として接していく様子がとても心地よく、おかげですんなり『剣客商売』ワールドに入り込む事ができました(^^;)。
 この酸いも酸いも甘いも噛み分けた秋山小兵衛さんが、「私は剣の道だけで、酒も女もやりません」と潔癖さゆえに自分へ反発してくる大治郎さんを不快に思うどころか、「我が息子ながら大した奴だ…」と認めて軽く受け流すシーンは、爽やかな物を感じさせられるので好きです。

 また、主人公・秋山小兵衛さんの六十代にはとても見えぬ意気軒昴で粋な男ぶりといい、息子・秋山大治郎さんの普段は気の優しい青年であるのものの剣に対しては妥協を許さぬ性格といい、後添い・おはるさんののんびり大らかな人柄といい(何と、秋山小兵衛さんとは四十歳差!親子どころかお孫さんみたいな年齢差だったのに、当初は驚きました;)、どのキャラもそれぞれに魅力的なのですが、中でも一番好きなのは女武芸者・佐々木三冬さん!
 賛否両論の政治家・田沼意次の妾腹の娘で、その生まれが関係してか田沼家の屋敷には居つかず幼い頃から男装して剣の道に打ち込み、その結果「井関道場の四天王の一人」と呼ばれる程の腕前になる勇ましい女性なのですが、男らしさを強調しようと気を張りつつもたまににじみ出る女性らしさが普通の女性以上に危うく魅力的な感じで、初見時は「『ベルばら』のオスカルが肩肘張ってた頃に似ている」と好感を抱いたのを覚えています。
 登場し始めた頃は、「お嫁入りなどとんでもないこと。三冬には剣の道があります」「なれど、私を打ち負かすほどの相手ならば、嫁いでもよろしゅうございます」と宣言した後、秋山小兵衛さんら男性陣の前で餡入りの饅頭を二つ立て続けに食べて呆気に取られたりしていますが、徐々に秋山親子に惹かれて行き、最終的には大治郎さんと結婚して一子を儲けています。
 しかし、結婚後さすがに男装はやめても剣道は続けており、子どもを生んだ後も剣の腕はますます冴えていったという記述がある為、若気の至りで済まさず意思を継続する所が未だにかっこいいな~と憧れさせられます(´Д`*)。

 今回再現するのは、『剣客商売』第二巻の「老虎」の中で、秋山小兵衛さんの妻・おはるさんが信州からやって来た老剣客・山田孫介さんに出した得意料理“おはるの鴨御飯”!
 作り方は意外に簡単で、鴨の脂身を煮出した汁で炊いたご飯の上に、お酒と醤油で味付けした鴨の赤身を乗せ、刻んだ芹をたっぷりかけたら出来上がりです。
 もともとおはるさんは料理上手なのですが、中でも“おはるの鴨御飯”は特に美味らしく、おかげで江戸で行方不明になった息子の行方を憂う孫介さんも一瞬その悩みが和らぎ、「かようなものが、この世に、ござったのか…」と舌鼓を打っていました。

 「老虎」はラストが少し重い一話なのですが、温かい食事とお酒でつかの間の休息をとったシーンがあったからか悲壮感が少し和らいでおり、そのせいか妙に印象に残ったお話でした。
 鴨は手に入らなかった物の、合鴨は何とか手に入ったので、早速作中にあった簡易的な作り方を参考に作ってみようと思います!


 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、合鴨肉の下ごしらえ。合鴨ロース肉の半身を用意し、脂身のついた皮部分と、赤身部分の二つに切り分けます。
 赤身部分は食べやすい厚さに薄くそぎ切りにし、脂身のついた皮部分は一口大に切ります。
おはるの鴨御飯1
おはるの鴨御飯2
 赤身部分は、お酒、醤油、水を合わせて沸騰させておいた小鍋へ投入して少し煮ます。
 あまり火を通しすぎるとガチガチになって味が落ちるので、一分経つか経たないかくらいですぐに火を消し、そのまま余熱で火を通しつつ味を染みこませます。
 充分に味が染みたと思ったら、煮汁から合鴨肉の赤身を一旦引き上げておきます。
 ※温めなおす時は、煮汁のみ沸騰させて火から下ろした時に、短時間赤身を浸してゆっくり温めるというやり方にした方が肉が硬くなりにくくていいです。
おはるの鴨御飯3
おはるの鴨御飯4
 その間に、ご飯作り。
 日本酒と水を入れて沸騰させた小鍋へ、合鴨肉の皮部分を投入して脂の旨味成分を煮出し、段々皮部分が縮んでお湯自体が白くにごってきたら火を止めます。
 荒熱が取れたら漉し器で一旦漉し、皮部分を取り除きます。
 ※皮部分はもう使わないので、他の料理の炒め物などに混ぜて再利用します。
おはるの鴨御飯5
おはるの鴨御飯6
おはるの鴨御飯7
 お湯が完全に冷めたら、生米と一緒に炊飯器に入れそのまま普通に炊き、炊き上がったらしゃもじでさっくり混ぜ合わせてます。
 ※見た目だけでは分かりにくいですが、一見真っ白に見えても香りは合鴨肉の甘やかな脂の匂いがプンプン漂っている為、普通のご飯でない事は瞬時に理解できます;。
おはるの鴨御飯8
おはるの鴨御飯9
 このご飯をお茶碗によそい、その上に温めなおした味付きの赤身肉と少々の煮汁、そして刻んだ芹を振りかければ“おはるの鴨御飯”の完成です!
おはるの鴨御飯10
 切ったばかりの芹の瑞々しく鮮烈な香りが鼻腔をくすぐる為、思ったよりも爽やかな印象を受けました。
 程よく煮えた合鴨肉の茶色、芹の目が覚めるような緑色、ふっくり炊けたご飯のツヤを帯びた白色の色合いが見るからに美味しそうで、目でも楽しめます。
 合鴨肉の脂のとろけるような香りがご飯からプンプン漂い容赦なく胃袋を刺激しますし、これは見た目だけでなく味にも期待が持てます。
おはるの鴨御飯11
 それでは、熱い内にざっと混ぜていざ実食!
 いっただっきまーす。
おはるの鴨御飯12


 さて、味はと言いますと…合鴨の旨味が二重に楽しめて美味し!鶏飯とはまた違った味わいで、不思議な気持ちになります。
 合鴨ロースの食感は、まるで柔らかい牛もも肉と肉汁たっぷりな鶏もも肉を合わせて二で割ったような「しなやかな弾力とジューシーさが両立した赤身肉」ともいうべき独特の肉質なのが印象的で、鳥なのにむしろ牛肉に近い味わいだったのにびっくりしました。
 中身がレアになるよう仕上げた為、日本酒のふくいくとした香り漂う辛口醤油味がしっかり染みている割にはふんわりした口当たりで、思ったよりも硬くなくて一安心です。
 肝心の味の方は、レバーを思わせる鉄っ気を帯びた野趣溢れる風味と、牛肉並に濃厚なのに鶏肉並にあっさりしたコクが特徴的で、噛むごとにジュワジュワと脂が舌に広がるのがたまらなく美味でした。
 例えるなら「甘くなくて柔らか肉厚な合鴨しぐれ煮」という調味で、このちょっと癖のある強い旨味を芹のバリバリシャキシャキした爽快な歯触りと、野草っぽく強烈に清々しい香りが一気に爽やかに洗い流すのが心地よく、これ以上ない組み合わせでした。
 一方ご飯は、合鴨の淡泊な脂分がほのかに染み込んでいるのが噛んでてしみじみおいしく、例えるとするならピラフかかしわ飯みたいな旨さだな~と思います(油分を含んだご飯は、一粒一粒はモチッとしつつも全体的にパラッと粘りを感じない仕上がりな事が多いんですが、このご飯にも似た物を感じました)。
 意外にもギトギトしておらず、合鴨を煮た時に出た奥深い出汁の醤油タレがちょうどいい味つけをしており、正直ご飯だけでもお代わり出来そうです;。


 鶏飯よりはボリュームがあり、鶏五目飯(福岡県民の管理人は、かしわ飯のほうが馴染みがありますが;)よりもさっぱりした感じのご飯料理でした。
 合鴨肉の鮮度や質のよさがストレートに出る一品なので、合鴨は特に上等の物を使われる事をおすすめします。

●出典)『剣客商売(二)辻斬り』 池波正太郎/新潮社
     『剣客商売 包丁ごよみ』 著者:池波正太郎 近藤文夫/新潮社
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2012.12.10 Mon 00:59  |  

新婚時代にみふゆんに作ってあげた、TKGも鴨肉じゃなかったかな
エッセイで、赤穂浪士が、討ち入り前に食ったとかいてあった
剣客商売は、梅安、鬼平より好きだな
なんか、ファミリーを形成してくかんじが、楽しい作品だった

  • #-
  • URL

2012.12.13 Thu 03:17  |  父子の関係

あんこさん、こんばんは。いつも楽しく拝見しています。

池波作品の常かもしれませんが、この作品に登場する料理も
おいしそうですね。「小茄子を丸のまま炙り、入れた味噌汁」とか、
豪華な素材を扱う訳ではないのに、ほんの少し目先を変えた
料理が、日本人には凄く魅力的に感じられます。

『剣客商売』の初期の頃は、お互いを良く知らない父と息子が
第二の親子関係を築いていくようなエピソードの積み重ねが、
とても楽しいですね。
大原の辻平衛門先生の下へ修行に赴く前の剣術一筋だった頃と
まるで違う、(命懸けで打ち込んできた筈の)剣術さえ軽口の対象に
する、あまりに砕けた毎日を送る父に困惑する息子。
長い修行を終え、鍛え抜かれた立派な外見をしている(おそらく
田沼屋敷での試合の結果も知っている)が、息子の本当の実力は
見ないままである故に、突き放していながらもついつい余計な
心配に心を囚われてしまう父。

それが、だんだんとお互いを知っていく様が物語に深みを与えて
いるように思えます。そして、
「俺も若い頃はお前同様、酒にも女にも興味なく剣術一筋だった」
という父に対し、「それはどうも信じられぬ、ようにも思いますが」と
冗談を言い、父は息子に「お前に勝てる若い剣客は江戸にはいない」
と、本気かどうか判らない褒め言葉を与えるまでになる…。

こんな変化が読み進める強烈な牽引力になっているのでは
ないでしょうか。それと、物語の余韻の魅力。僕の好きな話に
「婚礼の夜」がありますが、話のラストで宴の後、夜の大川を船で
帰る小兵衛とおはるを見送る大治郎に、おはるが
「若先生、明日は鰻を焼いて食わせますよう」と言う台詞。
物語の内容には特に関係ない言葉でも、何というか、事件として
話としては区切りでも、日常はこのまま続く、といった感じの
何ともいえないジワッと残る心地良さがありますね。

こんな事を書いていたら、また読みたくなってきました。
長々失礼しました。では、また~。

  • #SFo5/nok
  • kawajun
  • URL
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2012.12.22 Sat 02:06  |  

残った鴨の皮はキンピラゴボウへ。
鍋にサラダ油をひいて皮を投入。弱火でじっくり油を引き出してからゴボウとニンジンを入れて味付け。
ちょっと驚く味わいになります。

  • #EBUSheBA
  • 桜台
  • URL
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2013.01.26 Sat 09:15  |  

鴨ご飯、私も大好きで時折鴨肉を買ってきては作っておりました。
当初は鴨鍋でしたが、池波作品を知ってからは色々チャレンジするようにもなりました。
いいですよね。池波作品。「食べる事の意味」を教えてくれる気がします。
(ちなみに「山本孫介」ですね…)

  • #s33.cpiw
  • yanchanghao
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Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
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 …『土曜日ランチ!』
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 …『飯盛り侍』
 …『夢色パティシエール』


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