『今朝の春―みをつくし料理帖』の“ひょっとこ温寿司”を再現!

 先日、普段は滅多に行かないオシャレ系の洋風居酒屋へ足を運んだのですが、お冷やの入れ物が妙に細くて長いのに少しびびり、「お冷やのコップ一つとっても違うんだな~」とドギマギしました。
 他にも、ソース入れがフラスコに似ていたり、大きいグラスかと思いきや実はメニュー入れだったり、メニュー名がユニークな物ばかりだったり(そのまんまの料理名は伏せますが、「シチリアの潮風」とかそんなイメージの名称)と、田舎者な当管理人は少し気後れし、その都度「面白いけど、いつもの安心できる居酒屋が恋しい…」と、ホームシックならぬ居酒屋シックにかかってしまいました(^^;)。

 どうも、知人の居酒屋選びの基準が「イケメン店員がいるかどうか」になっていると聞いて「イケメン優先!そういうのもあるのか」五郎ちゃんみたいに呟いた管理人・あんこです。


 本日再現する漫画料理は、『今朝の春―みをつくし料理帖』にて主人公・澪ちゃんが昔お母さんが作ってくれたのを思い出しながらこしらえた“ひょっとこ温寿司”です!
今朝の春
 澪ちゃんが戯作者・清右衛門先生に“里の白雪”を食べてもらい、この時代の女性にとっては途方もない目標を示された日から、少し経った頃の事。
 冬至を迎えた朝、澪ちゃんは思い出深い化け物稲荷へお参りをしに行き、改めて「料理に身を尽くす」と決意するのですが、その帰りに偶然、<つる家>をいつも手伝ってくれているおりょうさんの夫・伊佐三さんが、ほろ酔い気分で千鳥足になっている若い女性と二人きりで歩いているのを目撃します。
 これだけでも十分怪しい場面だと思いますが、会話の方も「憎い人だよ。ここまで追い駆けて来たのに、手も出しゃしないなんて」と女性は意味深な言葉を漏らしており、その上しなだれかかる女性を伊佐三さんは拒もうともしなかった為、澪ちゃんは思わず目をそらして「後姿が似ているだけで、人違いだ」と無理やり考え、こっそり<つる家>へ帰ります。
 正直、普段から遊び人な男性だったならまだしも、伊佐三さんは非常に真面目で寡黙な人なので、はっきり目撃しても心の奥底では「まさか」という想いがどうしても拭えなかったのだと思います。
 それに、限りなく際どいけれども浮気かどうかはっきりしないシーンを見たら、本当かどうか分かるまでモヤモヤしつつも黙って見守る澪ちゃんみたいなパターンがほとんどだと思う為、初見時は澪ちゃんに共感しながらも冷や汗が流れたのを覚えています;。

 けれどもその数日後、おりょうさんと澪ちゃんは伊佐三さんの勤め先の上司である大工頭さんから「新宿の水茶屋のお牧って娘に入れあげているようで、仕事には影響はないが仲間内では随分噂になっている」「俺がちゃんと言って聞かせて女とはすっぱり手を切らせるから、短気は起こさねぇでくれ」と衝撃的な事実を伝えられたり(幸い、このときはおりょうさんはまだ「あの無口な人がどうやって若い娘を口説いたのかと思うと、あたしゃ可笑しくて」と笑う余裕がありました)、澪ちゃんが化け物稲荷で見た女性・お牧さんが<つるや>まで単身やって来て「伊佐三さんは私のいい人さ。おりょうさん、あんたあの人と別れとくれ」と宣戦布告に来たり、その直後におりょうさんと養子・太一ちゃんがどれだけすがっても伊佐三さんは新宿へ毎日出向くようになったりと、『みをつくし料理帖』シリーズには珍しく女の戦いがメインになったお話になっているのに驚きました;。 
 はっきり言って、これだけだったらひたすら重いエピソードになっていたと思いますが、後々重要なキーパーソンになる七歳でまだあどけない太一ちゃんが、養父・伊佐三さんを止めようと必死に追い求める描写が痛々しくもいじらしく、「子はかすがいっていうのは、本当その通りだな…」としみじみ実感させられます(実は、太一ちゃんは伊佐三さんの同僚だった実の両親を火事で亡くして以来声を失っている為、呼び止めようにももがくしか手段がなく、そのくだりを読むと切なさの余り胸が痛みます…)。

 結局、伊佐三さんはお牧さんへ会う為ではなく全く別の理由で新宿へ通っており、一方お牧さんの方も浮気相手どころか実際は片思い状態で一度も伊佐三さんに触れられていない事に業を煮やし、ある事件を起こして自滅してしまいます(詳細は、『今朝の春―みをつくし料理帖』の第三話「寒紅」で描かれています)。
 個人的に、伊佐三さん・おりょうさん・太一ちゃんの気持ちも理解出来た反面、(やり過ぎな所はややあったものの)お牧さんの心境も同情の余地があると思ったので、少々複雑な気持ちになったエピソードでした(´・ω・`)。

 今回作ってみるのは、全てが丸く収まってひと段落ついた後、澪ちゃんが遠い昔お母さんが作ってくれた味を料理人として手を加え<つる家>のみんなに振舞った“ひょっとこ温寿司”!
 作り方は手間がかかるものの基本は簡単で、出汁や醤油などでコトコト味を煮含めた干ししいたけ・かんぴょう・にんじんを茹でエビと一緒に酢飯へ入れて混ぜたら器に盛り、その上に錦糸卵を乗せて蒸し器で熱々になるまで温めたら出来上がりです。
 澪ちゃん曰く、今は亡きお母さんが「底冷えのする大阪の冬に、何か温かいものを」と工夫して出してくれた懐かしい家庭料理だそうで、冬になるたび思い出す一品だと話していました。
 当初、<つる家>の店主・種市さんは「酢飯を温めるなんてのは、おれはどうも…」と気が乗らない様子でしたが、いざ食べ始めるとひょっとこみたいに熱い湯気をふうふうしながら「こいつぁ案外」と夢中になって食べていたのが微笑ましかったです。

 南にある福岡の地もようやく寒さが厳しくなってきた為、再現を決定しました。
 知り合いの方から頂いた大ぶりで立派などんこ椎茸を使い、巻末のレシピ通り早速作ってみようと思います!


 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、材料の下ごしらえ。一晩水に浸けて戻した干ししいたけを、戻し汁・砂糖・醤油・みりんを煮立てて作った調味液入りの小鍋へ投入し、じっくり味を煮付けます。
 中まで味が染みたら冷ましてギュッと絞り(絞りすぎてもスカスカになるので、「少し煮汁が残ってるけど、ベチャつかない」くらいでやめておいた方がいいです)、食べやすい大きさに切ります。
ひょっとこ温寿司1
ひょっとこ温寿司2
ひょっとこ温寿司3
 にんじんは小豆粒(五ミリ程度)くらいのサイズになるよう刻み、カツオと昆布の合わせ出汁・砂糖・塩を沸騰させて作った調味液入りの小鍋に加えて、柔らかくなるまでじっくり煮ます。
 かんぴょうは二十~三十分水に浸けて戻し、よく水気を絞ったらカツオと昆布の合わせ出汁・砂糖・塩・醤油を煮立てて用意した別の調味液入りの小鍋に入れて味をよく煮含め、冷ましたらしっかり絞って食べやすい長さに切り揃えます。
ひょっとこ温寿司4
ひょっとこ温寿司5
ひょっとこ温寿司6
 その間、出汁・お酒・塩で味付けした溶き卵で錦糸卵を作ったり、背ワタを取って茹でて殻や尾を外したエビを用意したり(最後にちょっと寿司酢をかけておきます)、昆布とお酒を入れて炊いたご飯へお酢・砂糖・塩で作った合わせ酢をかけてさっくり混ぜた酢飯を準備します。
 これで、下ごしらえはOKです!
 ※昆布はお米に水を吸わせる時に一緒にいれ、炊く直前に取り出します。
ひょっとこ温寿司7
ひょっとこ温寿司8
ひょっとこ温寿司9
 次は、混ぜ込み&蒸し作業。
 先程の酢飯に、干ししいたけ、かんぴょう、水気をきったにんじん、茹でエビを入れて練らないようざっくりと底から混ぜ合わせ、人数分だけ茶碗へよそいます。
 その茶碗の上に錦糸卵を散らしてフタをし(フタが無い場合は小皿やアルミホイルで代用出来ます)、蒸気の上がった蒸し器に並べて約二十分蒸します。
ひょっとこ温寿司10
ひょっとこ温寿司11
ひょっとこ温寿司12
 時間が経って寿司全体が温まったらすぐに取り出し、熱い内にお箸と共に机へ運べば“ひょっとこ温寿司”の完成です!
ひょっとこ温寿司13
 寿司全体から立ち上る蒸気と、器ごしに伝わってくる熱さが印象的で、じっとしているだけで凍えそうな今の季節にぴったりな料理だと感じました。
 干ししいたけ、かんぴょう、にんじん、エビ、錦糸卵と具は質素ですが、蒸気から香ってくる濃い出汁の匂いが「これは絶対美味しい」という予感をかき立てます。
 人肌のお寿司は食べた事があるものの、熱々の物は初めてなので、一体どんな味がするのか楽しみです!
ひょっとこ温寿司14
 それでは、熱いうちにいざ実食!
 いっただっきまーす。
ひょっとこ温寿司15


 さて、味はと言いますと…寒い時期に食べると一際格別な、心温まる味。その名通り、否応なしにひょっとこのような顔になる一品です。
 ほんのり甘酸っぱい酢飯と、薄くなるギリギリ手前で品よく甘く煮られた具が口の中で徐々に一体化していくのが何ともほっとする感じで、派手さはないんですが飽きのこない素朴な味わいです。
 昆布と日本酒によって香り高く艶のある炊き上がりになった酢飯が美味で、酢を十分に吸い込みつつもベシャッとならずふっくらしたままなのに感心しました。
 熟成された旨味が堪えられない干ししいたけのグニグニシコシコした歯触り、まるで上等な和菓子のようにじんわり甘いかんぴょうのコリコリ感、ふんわり炊かれて合わせ出汁が芯まで染み通ったにんじんのサクサクした食感が歯に心地よく、どんなに噛み続けても下味がしっかりにじみ出てくる為、スルメのようにいつまでも噛んでしまう魅力があります。
 最初の内は熱々の蒸気をハッホッと逃しながら食べるので少し慌ただしいのですが、酢の酸味を帯びた爽やかな湯気の中に、様々な具の香りが入り交じって鼻をくすぐるのが全体の味わいをさらに高めるのに役立っており、改めて匂いも旨さと密接に結び付いている重要な要素なのだと感じ入りました。
 錦糸卵のフワッとした口当たりと淡泊な味わい、エビのプリプリした弾力とほのかな塩気が時折箸休めのような役割を果たしているのもよく、最後までほのぼのしながら頂けます。
 冷えきった酢飯はどうしても酸味が尖りがちなので好き嫌いが分かれますが、温めると優しくまろやかな酸味に変化する為、酸っぱいのが苦手な方にも受け入れやすい仕上がりになっていると思いました。


 一つ一つ別の煮汁で丁寧に煮含めると、素材の個性がそれぞれくっきり浮き上がるので、一緒に煮なくて正解だと感じました。
 定番のままの具もいいですが、鮭・れんこん・白ゴマを加えてみても美味しくなりそうです。

○おまけ
 巻末レシピによると、三つ葉を散らして食べてもいいとの事でしたので、おかわりした時に早速試してみました。
 食べてみると、確かに三つ葉のしゃっきりした食感とすっきりした香気が“ひょっとこ温寿司”の奥行きを高めてくれていましたので、こちらの方もおすすめします!
ひょっとこ温寿司16

●出典)『今朝の春―みをつくし料理帖』 高田郁/角川春樹事務所
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2012.11.28 Wed 21:00  |  

うまそー。 りょうりつくるのうーまい。

  • #-
  • でーぶ
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2012.11.29 Thu 17:05  |  

ちらし寿司の冷えてないあったかいめのが好きな私にとっては垂涎ものです。干し椎茸のうまみが入ってとてもおいしそうですね(・∀・)

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あんこ

Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
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