『せやしだし巻京そだち』の“ぐじの酒蒸し”を再現!

 先日、真鯛のアラ煮を食べている時に「鯛の中の鯛」を見つけたのに浮かれた当管理人は、早速洗って取っておこうと流水ですすいでいたのですが、少し残っていた身をとろうと力を込めた途端パキッと割れてしまいましたorz。
 今年中に、また見つける事が出来ればいいな~と願っています。

 どうも、明日二十七歳の誕生日を迎えるにあたり、「とうとうスパイクアナゴさんと同い年になるんだな~」と感慨深い心境になっている当管理人・あんこです。


 本日再現する漫画料理は、『せやしだし巻京そだち』にて著者・小林明子先生が昔から冬になるたび作ってらっしゃる実家の定番料理“ぐじの酒蒸し”です!
ぐじの酒蒸し図
 『せやしだし巻京そだち』とは、一九六〇年代に京都の老舗呉服問屋で三姉妹の次女として誕生した生粋の京都人である著者・小林明子先生が、まだ幼く「アッコ(ちゃん)」という愛称で呼ばれていた幼少期を回顧して描かれた、リアル京都エッセイ漫画。
 まだ昭和の匂いが色濃かった頃、曾祖母・祖父母・父母・叔父叔母・姉妹・お手伝いさんの総勢十三名の大所帯で商家の娘として過ごされてきた小林明子先生だからこそ思い返せる、独特の京都事情や京都人らしい言動がユーモアたっぷりに書かれており、他県民の当管理人にとってとても興味深い一冊です。
 本作は春夏秋冬の四つにテーマを分けて書かれている為、おぼろげながらも本当に京都で一年を過ごしているような気分に浸れていい感じでした(ア○ゾンレビューにて「京都版ちびまるこちゃん」と表現されている方がいましたが、まさにそんなイメージです)。

 生粋の京都人エッセイといえば、まず第一に小林明子先生とほぼ同世代のグレゴリ青山先生が頭に思い浮かびますが、グレゴリ青山先生が庶民風&中高生時代のお話が主であるのに対し、小林明子先生は旧家風&小学校時代中心のお話ばかりでよりセピア色な仕様になっており、一味違った感じなのが面白いです。
 正直、『京都人だけが知っている』系の書籍に共通する強烈な自意識は苦手なタイプでしたので、実際に読む前は「代々呉服屋さんの家系だったのなら、相当すごいのでは…」と少し腰が引けていたのですが、いざ読んでみると程よい客観的視点で説明される「しぶちん(ケチ)」「よそさんの前で見栄を張る」精神が嫌味でも高圧的にでもなくスッと頭に入ってくる、ごく自然な作風で、すぐに好感が持てました。

 自慢どころか、後書きで「イケズなところもある。狭いし、うっとうしい街でもある」と話されている通り、数々の笑いありトホホありのエピソードが作中で何度も登場するのですが(家業を仕切っているお婆ちゃんがただならぬ迫力で「ゆっくりしておいき~」と言うのを、「なんか分からんけど、はよ帰らなアカン気がする」と感じ取るアッコちゃんのシーンは京都らしさが凝縮されてて笑いました;)、それでも「ぬるま湯の京都が好き」と語られる小林明子先生の生まれ育った地への愛情がじんわり伝わってきますので、京都人エッセイを読んでみたい方には是非とも推奨したい作品です。
京都の老舗呉服問屋で、三姉妹の次女として誕生した主人公(=筆者)のあっこちゃん無言の「早う帰れ」というプレッシャーが恐ろしい…(((゜Д゜;)))
 どのエピソードもおすすめなのですが、中でも好きなのが春の章の「さすが老舗の」というお話に出てくる永楽屋の一と口椎茸というおかずのエピソード。
 永楽屋の一と口椎茸とは、小ぶりで肉厚な国産どんこ椎茸を佃煮にしたおかずにしては高価な品で(調べた所、100g780円だそうで確かに贅沢品!)、家族全員が好物だった事から小林明子先生はほぼ毎回一個しか食べられなかったと嘆かれていました;。
 おじいちゃんとおばあちゃんが見ていない時に三姉妹が残り三個を「今や!」とこっそり取ろうとしても、何故か直前に猛烈な争奪戦になったという下りが読んでいて面白く、「家族が多いとおかずの取り合いになるのは、老舗も同じなんだな~」と共感を覚えました。

 そのせいか、やっとの思いで死守した一と口椎茸を小林明子先生はそのままパクッと食べてお仕舞いにせず、「少なめに盛った熱々のご飯にまず椎茸の汁を搾り取るようにしてこすりつけ、一旦茶色くなったご飯だけを味わう→完食したらもう一度少しだけご飯をよそって先程の椎茸を乗せ、椎茸を漂白する勢いですすいでお湯に椎茸エキスを洗い出して食べる→最後に、やっと椎茸を噛み締めて食べる」とかなり凝った食べ方をされていたとの事で、おかあさんから「あんたぁ、いつまで食べてんの!はよ片づけ手伝い!」と怒られていたそうです;。
 この他にも、小林明子先生流・卵かけご飯と味醂漬の食べ方が紹介されていたり、水無月や鯖寿司といった京都の食べ物が紹介されていたりと、食いしん坊にはたまらない描写がてんこもりで、読んでいるだけでおなかがすいてきます。
総勢十三名の食卓だと、豪華なおかずの取り合いは熾烈を極めます;
 しかし、楽しいお話だけではなく切なくなるエピソードも僅かながらあります。
 その代表的な一話が、夏の章の「仕出し屋さん」。
 昔、京都では来客用のお料理を用意するのに仕出し屋さんという業者に頼む事が珍しくなかったとの事で、業者さんがプロの道具や下ごしらえ済みの食材を持ち込んで自宅の台所で色々料理をしに来るのを幼いアッコちゃん(=小林明子先生)は興味津々で覗き込んでいたそうなのですが、そんな時によくお話していたのがにしやんというちょっと怖そうなお兄さん。

 当初は「にしやん、元はヤ○ザやったりして」と少しビクビクしていたアッコちゃんですが、ある日余った出汁巻きを貰って喜んだアッコちゃんを見て、にしやんは「なんや妹に食べさせてるみたいやなぁ」と笑い、それ以来余った料理を内緒でつまみ食いさせる仲に。
 どうやら、にしやんには離婚した母に連れられて五年以上会っていないアッコちゃんくらいの歳の妹さんがいて、知らず知らずの内に妹さんの面影を重ねていた模様で、アッコちゃん自身お兄さんが出来たみたいな気持ちになって嬉しかった為、密やかな交流が続いたとの事。
 その内、出汁巻きがうまく負けないアッコちゃんにいつか時間が空いたら巻き方を教えると約束してくれるようにまでなります。
 けれども、この不思議な交流もある時唐突に終わりを迎えます―。

 恐らく二度と会えないという事を漠然と感じつつも、幼さゆえに深刻に感じ取れないまま離れてしまい、そのまま大人になったある日ふと思い出して「どうしているんだろう」と考えては色んな感慨にふける、あの鈍い痛みの感覚を蘇らせてくれるお話です。
親の離婚で行方知れずな妹さんに面影を重ね、優しくしてくれたにしやん
 今回作ってみるのは、冬の章の「ハンコ掃除」というお話に出てきたある定番の一品。
 年の瀬、小林家では父と子ども達で家族全員分のハンコ掃除をするのが恒例行事だったそうで、冬になるとハンコの溝に詰まった汚れを黙々と取り除いていたとの事。
 そんな時、お父さんは裏を見なくても天地が分かるハンコはほかしなさい(=捨てなさい)とアッコちゃん達に説教したそうです。
 お父さん曰く、「ハンコっちゅうもんは商売人の命や」「ええ契約や思っても、すぐ判押さんとゆっくり天地を確認して、この契約はほんまにうちにとって有益やろか、と今一度自分によぉ問わなアカン」だそうで、この一節を読んだ際、取引が日常茶飯事である商家らしい教訓だと感心したのをよく覚えています。
 ほんの一瞬で終わった銀行員時代、支店長や上司から聞いた背筋が凍るような逸話や、応接間で涙ながらに「何とかしてもらえませんか?」と訴えられた方を数人見た経験からか、この教えは深く突き刺さります…orz。

 この時期、ハンコ掃除が終るとよく食卓に上がっていたお父さんの好物がこの“ぐじの酒蒸し”。
 作り方は簡単で、ぐじの切り身を湿らせた昆布で挟んでお酒をたらし、アルミホイルで包んで蒸したら出来上がりで、三つ葉と柚子を添えたら尚良しとのことでした。
 “ぐじの酒蒸し”が夕食に出た日のお父さんは、必ず上機嫌になったと後に小林明子先生は回想されており、それから数十年経った今でも“ぐじの酒蒸し”を作る晩は「ハンコの掃除せんと…」と条件反射的に思い出すと話していました。
判子を押す寸前、もう一度よく考えてから押すのが商人の基本と語るお父さん
 最近、やっと近所のスーパーでも甘鯛を手に入れられるようになってきたので、思い切って再現しようと決めました。
 巻末にレシピもある事ですし、早速作ってみようと思います!


 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、甘鯛の下準備。甘鯛のウロコ・ヒレ・頭を落として二枚下ろしにし(骨を残した方が、旨味が濃い仕上がりになります)、食べやすい大きさの切り身にしたら両面に薄く塩を振って二十分程度放置します。
 表面に水滴が浮かんで汗をかいたようになってきたら臭みが抜けた証拠なので、キッチンペーパーでしっかり水気を拭き取ります。
ぐじの酒蒸し1
ぐじの酒蒸し2
ぐじの酒蒸し3
 次は、蒸し作業。
 濡れ布巾で拭くなどして水分を含ませた幅広昆布に先程の甘鯛を乗せて挟んでアルミホイルの上に置き、日本酒を振りかけてしっかり口を閉じたら蒸気の出ている蒸し器に並べ、中に火が通るまで蒸します。
 ※昆布に水分が足りていないと、甘鯛が昆布にひっついてはがれなくなるので要注意です。もし、「水分が足りないかも…」と思ったら、日本酒をやや多めにかける事をお勧めします。
ぐじの酒蒸し4
ぐじの酒蒸し5
ぐじの酒蒸し6
 甘鯛に程よく火が通ったらそのまま昆布ごとお皿に移し、仕上げにくし切り柚子と結び三つ葉を飾り付ければ“ぐじの酒蒸し”の完成です!
ぐじの酒蒸し7
 春の真鯛も鮮やかな紅色の皮が白い身に映えて美しいですが、冬の甘鯛のほころびかけた桜を思わせる初々しいピンク色も、なかなか風情があります。
 昆布の控えめながらも品のいい香りと、柚子のはっとさせられる酸味がかった芳香の組み合わせがいい感じで、非常に典雅な印象を与えられます。
 あんなに簡単なのにここまでご馳走っぽい一皿になるとは予想外だった為、一体どんな味がするのか楽しみです。
ぐじの酒蒸し8
 それでは、蒸したての内にいざ実食!
 いっただっきまーす!
ぐじの酒蒸し9


 さて、味はと言いますと…「甘鯛」の名前通り甘さが際立っている身で美味し!昆布がいい仕事をしています!
 甘鯛は水気が多い魚なので生だといま一つぼんやりした味なのですが、蒸すと程よく水分が抜けて身が引き締まり、ほんのりついた塩味で旨味がギュッと凝縮されるので印象がガラリと変わりました。
 真鯛よりもずっと柔らかく、しっとりホロホロと口の中で崩れていく繊細な身質が特徴的で、短時間蒸しただけとは思えない程儚い口当たりなので感心します。
 不思議な事に、鯛だというのに甘海老やホタテの刺身を噛んだ時みたいなねっとり濃密な甘味が舌にじわ~っと広がる感じで、白身魚系の中では一番甘さが強い魚だと思いました。
 そのくせ上品かつあっさりした後口で癖がなく、どちらかというと淡泊な味わいで、まさにイメージ通り老舗料亭向きの高級魚だな~と改めて実感させられます。
 脂肪分がほとんどない為、重厚さやパンチには欠けていますが、優しく後を引く旨さでした(その為、若年層よりご年配の方に受けがよさそうです)。
 また、昆布で包んで蒸したのが功を奏して全体に昆布エキスが効いた粘りがうっすらついており、餡かけとまでいかなくとも薄いくず餡風のとろみで甘鯛の風味を封じ込めたみたいな凝った味わいに仕上っています。
 昆布の穏やかな滋味が甘鯛の身全域に染み渡っているのがしみじみ美味しい上、絞りたての柚子のフレッシュな酸味や三つ葉の香りが爽やかな一品で、簡単な割には随分本格的な出来栄えです。


 昆布締めと酒蒸しのいい所取りみたいな料理で、個人的に一番美味しい甘鯛の調理法はこれではないだろうかと思いました。
 日本酒にぴったりなご馳走なので、確かにこれはお父さんもご機嫌になるはずだと納得しました。

●出典)『せやしだし巻京そだち』 原作:小林明子 作画:ハンジリョオ/140B
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

Comment

2012.11.06 Tue 00:55  |  

アマダイのうろこ落としはったんですか。
次は落とさずにぜひチャレンジしてください。

  • #I1nBa9Is
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2012.11.06 Tue 08:36  |  京都らしい料理

甘鯛ですか(゜゜;)
仙台生まれの小生としてはすごくめずらしいお魚です。
色々な料理漫画で甘鯛料理を見てきましたが、
いまだに食べる機会がありませんね。。。
再現料理を拝見しましたが、
すごく繊細で京都らしい料理だと感じました。
美味しんぼでも記載されたウロコ付きの若狹焼きは一度食べてみたいです。

今回の漫画面白そうですね。
ぜひ読んでみようと思います。
次回も頑張ってください(゜∇^d)!!

  • #86VISOJs
  • しゅてん
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2012.11.06 Tue 12:39  |  

若狭焼きのエピソードは、味いちもんめにもありましたね。
上手く焼くのが難しそうなので、チャレンジ期待してます…と、ムチャ振りw

  • #-
  • URL

2012.11.07 Wed 00:22  |  いつ見に来ても美味しそうです(≧∇≦)

最近読んだ甘鯛(グジ)料理は、味いちもんめ 独立編の皮煎餅と、鉄鍋のジャンの蟇目対決の時の紅龍童魚です!
関西在住ですが、まだ甘鯛料理は食べた事がありません。
いつか食べたい料理です!

  • #/2CD/BNk
  • 桜海
  • URL
  • Edit

2012.11.07 Wed 10:44  |  

これは美味しそうですね。見た目も非常に上品。
甘鯛とはあまり食べる機会が無いので、ぜひ一度食べてみたいものですな。

2013.04.10 Wed 10:17  |  管理人のみ閲覧できます

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Author:あんこ
・性別:女
・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
 …『なんちゃって駅弁』
 …『華中華』
 …『花のズボラ飯』
 …『まかない君』
 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
 …『みをつくし料理帖』
・再現料理を予定中の漫画:
 …『浅草人~あさくさびと~』
 …『鬼平犯科帖』シリーズ
 …『銀の匙』
 …『拳闘暗黒伝セスタス』
 …『スイーツ本部長一ノ瀬櫂』
 …『旅のグ(2)月は知っていた』
 …『テルマエ・ロマエ』
 …『土曜日ランチ!』
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・各作品に掲載されているレシピの分量は、例外なく全て非公開にする方針を取っておりますので、ご了承の程をお願いいたします(←この件についてご質問頂いた場合、誠に失礼ながら下記の理由でご返信しない方針にしております)。

※現在、公私の多忙と、再現記事のペース維持を理由に、コメント欄へのご返信が出来ない状態が続いております。
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