『想い雲―みをつくし料理帖』の“里芋黒胡麻あん”を再現!

 クレオパトラの美貌を保つ秘訣の一つに、ごま油があったと聞いて驚きました。
 それも食用として摂取していただけではなく、香料・化粧品・エステオイルとして使用し、肌の美しさをキープしたとの事。
 調べてみると、現在でも美容用ごま油は存在し、それを塗ると肌荒れ予防、老化防止、アンチエイジングに役立つのだそうで、昔の美容術も案外的外れではなかったのだな~と驚きました。

 どうも、クレオパトラの「まるで楽器のようだ」と称賛された声はどんなものだったのだろうと空想した管理人・あんこです。


 本日作ってみる再現料理は、『想い雲―みをつくし料理帖』にて澪ちゃんが秋に<つる家>で出す思い出の料理・“里芋黒胡麻あん”です!
『想い雲―みをつくし料理帖』 澪の鮎飯
 それは、今ではすっかり澪ちゃんの妹的存在になっている下足番・ふきちゃんが、<つる家>へやって来て半年以上経った秋の事。
 <登龍楼>に奉公している弟・健坊が、姉のふきちゃんと離れ離れのまま受ける厳しいしつけに耐え切れずにお店を飛び出し、それ以来何日間も見つからないという騒動が起きます。
 実は健坊が行方不明になる直前、一度は「おいら、ねえちゃんの傍がいい」と言って逃げ出してきたのを、心を鬼にしたふきちゃんが「奉公先を勝手に抜けてきたりしたら駄目じゃないの。今ならお目玉だけで済むから」と強引に送り返した矢先の出来事だったので、ふきちゃんは自分を責めるあまりに食事が喉を通らなくなり、徐々に衰弱していってしまいます(←唯一の身内が行方不明になるというだけでも相当な衝撃なのに、その上「自分のせいかもしれない」という重圧まで加わったのですから、無理もないと思います…。読んでいて、痛々しく感じました)。
 そんなふきちゃんを澪ちゃん達は案じながらも、その内お店を閉めてみんなで健坊を探し続ける事に限度が来た為、幾日か経ってようやく<つる家>を開ける事にします。
 ふきちゃん・種市さん・芳さんは今まで通り健坊捜索に出て、お三方が抜けた穴をおりょうさんとりうさんが補うという形での変則的な営業でしたが、澪ちゃんは「こんな時に…」と心苦しい反面、料理によって心が解き放たれ、それまでに感じていた不安や心配事も自分を蝕まなくなったことに、ありがたさを感じていました。
 澪ちゃんが申し訳なく思う気持ちも分からなくはないですが、不安で苦しくて仕方がない時、何か救いを見つけて精神の均衡を保つのはとても大事な事だと思いますので、このシーンを読んだ時は少しほっとしたのを覚えています。
 そんな時、澪ちゃんが自分の料理の原点を思い出しつつ久方ぶりに作り、お昼時に<つる家>で出したのが、この“里芋黒胡麻あん”です!
 作り方はそこそこ簡単で、お出汁や醤油などで関西風に薄く味付けして煮た里芋の煮物へ、すった黒胡麻・お出汁・砂糖・みりん・醤油・葛粉を合わせて作った黒胡麻あんをかけたら出来上がりです。
 澪ちゃん曰く、これは昔まだ大阪で暮らしていた頃、天満一兆庵の板場に入れてもらって間もない時に今は亡き店主・嘉兵衛さんに初めて褒めてもらった一品だそうで、「今日のような日にこそ、こういう一品を出しておきたかった」という想いでお店に出したと作中で述懐していました。
 なお、高田郁先生が言うには、この料理は『江戸のおそうざい 八百善料理通』に乗っていたあるレシピを参考に創作したオリジナルレシピだそうで、色々と応用がききますとお勧めされていました。
 初めて読んだ際は、「黒胡麻はお菓子に使う胡麻というイメージが強いような…」とその組み合わせに驚きましたが、後々調べてみますと1785年に刊行された『大根一式料理秘密箱』という本に、“利休あえ大根”(薄く切って煮た大根に、すった黒ごま・白みそ・みりん・シナモンを混ぜたタレを合わせて作る和え物)という、江戸時代の物とは思えない程衝撃的な料理も存在していたようですので、澪ちゃんが作ったような黒胡麻あんが実際に江戸時代にあったとしても何ら不思議はない、と妙に納得したのを覚えています。

 幸い、味の濃い料理を好む江戸っ子たちにもこの“里芋黒胡麻あん”は好評だったのですが、その日の夕方に夕餉用の下ごしらえをしている最中、ふきちゃんが倒れて<つる家>の奥へ運び込まれたのを見て動揺し、つい気がおろそかになって黒胡麻あんに加える調味料のバランスを崩して塩っ辛く仕上げてしまい、それを坂村堂さんから「昼の味とは違ってしまっています」と指摘されて残されてしまうという、料理人としては最大の失態をおかしてしまいます…。
 恥ずかしさと悔しさのあまり、思わず澪ちゃんは台所で膝から崩れ落ちて少しの間首を垂れるのですが、そんな澪ちゃんを見ていられなくなったのか、りうさんは自身の思う「真の料理人」像を語り出し、澪ちゃんに大きな影響を与えます-。
 一体、澪ちゃんはりうさんに何を教え諭されたのか、そして健坊はどこへ行ってしまっていたのか…これ以上書きますと話が長くなりすぎてしまいますので省略させて頂きますが;、どちらも心温まるエピソードになっていますので、是非原作にてご確認していただくことを強くお勧めいたします。

 最近、近所の市場でいい里芋を手に入れる事が出来ましたので再現する事にしました。
 作中には詳しい作り方が書かれていなかったものの、ありがたい事に高田郁先生が監修した料理本・『みをつくし献立帖』に分量つきのレシピがご紹介されていましたので、早速そちら通りに作ってみようと思います!


 という事で、レッツ再現調理!
 まずは、里芋の煮物作り。里芋の泥を落として包丁で皮を剥き、米のとぎ汁をはったお鍋に入れて火にかけ、下茹でします。
 程よくゆであがったらザルにあけ、余分な水気をきっちりきっておきます。
里芋黒胡麻あん1
里芋黒胡麻あん2
 この里芋を、鰹と昆布の合わせ出汁、お酒、みりん、醤油を加えて煮立ておいた煮汁入りのお鍋へ投入し、薄く味を煮含ませます。
 里芋の表面がうっすらとお出汁の色へと染まりだしたら、里芋の煮物は準備OKです。
 ※この時、味を濃く煮付けますと黒胡麻あんとの相性がイマイチちぐはぐになってしまいますので、関西風にあっさり煮るよう気を付けます。
里芋黒胡麻あん3
里芋黒胡麻あん4
 次は、黒胡麻あん作り。
 すり鉢へ炒った黒胡麻を加えてすりこ木でよ~くすり(←最初は白い部分が目立ちますが、根気強くすり続けていくと段々全体が漆黒に染まっていきます)、途中で鰹と昆布の出汁、砂糖、みりん、醤油を合わせておいた物を注いでのばします。
 黒胡麻ペーストが汁状になったら小鍋へ移して火にかけ、少量の水で溶いた葛を回し入れて丹念に混ぜ合わせます。
 やがて全体が煮詰まり、表面に透明感のある艶が出てきてとろみもついたら、黒胡麻あんは出来上がりです。
 ※葛を合わせる時は火を消してからがいいです。葛と黒胡麻ペーストがよく混ざったら再び弱火にかけ、じっくり練り合わせると、葛特有のねっとりしたとろみがつきます。
里芋黒胡麻あん5
里芋黒胡麻あん6
里芋黒胡麻あん7
 温め直した里芋の煮物を煮汁抜きで器へ盛り付け、仕上げに熱々の黒胡麻あんを上からトロリとかければ“里芋黒胡麻あん”の完成です!
里芋黒胡麻あん8
 うっすらと出汁色に煮上げられた里芋に、真っ黒な黒胡麻あんがくっきりと映え、見た目だけでもなかなかインパクトがあります。
 黒は黒でも、艶と照りのある輝くような黒色ですので、食欲をそそられます。
 黒胡麻の香りを含んだ湯気は、料理というよりはお菓子のようなイメージで、一体どういう味になっているかとても気になります。
里芋黒胡麻あん9
 それでは、出来立てでまだ湯気が立っている内にいざ実食!
 いっただっきま~っす!
里芋黒胡麻あん10


 さて、味の感想ですが…熱々里芋と黒胡麻あんの組み合わせがうっとりする旨さ!黒胡麻の香り高さに感嘆させられます!
 鰹と昆布の合わせ出汁を薄く上品に煮含ませた、関西風の優しい味付けの里芋に、こっくりと濃厚な砂糖醤油味の黒胡麻あんが抜群の相性で、互いの良さを邪魔する事なく引き立てあっています。
 例えるとするなら「みたらし団子のタレ風甘辛胡麻あん」というイメージで、白胡麻よりもさらに香ばしい風味が強い黒胡麻の個性を最大限まで活かしたあんだと感じました(←なので、お惣菜というよりはどちらかと言うとおやつっぽいな~と思ってます)。
 気のせいか黒胡麻は白胡麻よりもやや油分が薄く、ほんのりほろ苦くて比較的さっぱりした印象で、見た目のインパクトが強い割には里芋の淡泊な味わいを殺す事なく、アクセントだけ付け足しているのに満足しました。
 里芋の控え目な塩気と黒胡麻あんのサラッとした甘味のバランスが絶妙で、この二つが混然一体となった時に生まれる甘塩っぱさが癖になります。
 葛特有のもったりとした粘りのとろみがついた黒胡麻あんが、これまたねっとりと絡むような舌触りの里芋とよく合っており、噛み締めるごとに地味ながらも徐々に深みが増していく大人っぽい一品でした。


 里芋の煮物だけではなく、お団子やトーストにかけて食べてもいけそうです。
 白胡麻と黒胡麻の違いがはっきりと分かりますので、いろんな方に是非一度は堪能していただきたいお料理でした。

●出典)『想い雲―みをつくし料理帖』 高田郁/角川春樹事務所
     『みをつくし献立帖』 高田郁/角川春樹事務所
※この記事も含め、当ブログの再現料理記事は全てこちらの「再現料理のまとめリンク」に載せています。

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2013.11.23 Sat 20:37  |  遅蒔きながら

毎回楽しく拝見させて頂いております

たまにわたしも再現レシピやってます♪

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・趣味:読書、料理、ゲーム
・一言:食と本をこよなく愛してます。
・特に意欲的に再現中の漫画:
 …『姉のおなかをふくらませるのは僕』
 …『美味しんぼ』
 …『クッキングパパ』
 …『紺田照の合法レシピ』
 …『酒のほそ道』
 …『じったんの時短レシピ』
 …『鉄鍋のジャン!』
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 …『花のズボラ飯』
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 …『ママの味♥魔法のおかわりレシピ』
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・再現料理を予定中の漫画:
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